姦姦蛇螺（かんかんだら）（2ページ目） とても会話になるような雰囲気じゃなく、いったん電話を切ってオレはＢの家へ向かった。 話によると、Ｂは昨夜家に帰ってから急に両手両足が痛いと叫びだした。 話を聞いてすぐＢの部屋へ向かうと、階段からでも叫んでいるのが聞こえた。 オレ「おい！どうした！」 オレ達が呼び掛けてもいてぇよぉと叫ぶだけで目線すら合わせない。 Ｂ母「あそこで何をしたのか話してちょうだい。それで全部わかるの。昨夜あそこで何をしたの？」 何を聞きたがっているのかはもちろんわかってたが、答えるためにあれをまた思い出さなきゃいけないのが苦痛となり、うまく伝えられなかった。 717 ：姦姦蛇螺(11/17)：2011/06/26(日) 13:49:23.28 ID:0WuN67Vj0 二人とも気付いた。楊枝だ。あれにはＢしか触ってないし、形もずらしちゃってる。 しばらくどこかと電話で話した後、戻ってきたＢのお母さんは震える声でオレ達に言った。 Ｂ母「あちらに伺う形ならすぐにお会いしてくださるそうだから、今すぐ帰って用意しておいてちょうだい。あなた達のご両親には私から話しておくわ。何も言わなくても準備してくれると思うから。明後日またうちに来てちょうだい。」 意味不明だった。誰に会いにどこへ行くって？説明を求めてもはぐらかされ、すぐに帰らされた。 意味がまったくわからんまま、二日後にオレとＡはＢのお母さんと三人で、ある場所へ向かった。 その村のまたさらに外れの方、ある屋敷にオレ達は案内された。 おっさんの方はその筋みたいなガラ悪い感じで、スーツ姿。 718 ：姦姦蛇螺(12/17)：2011/06/26(日) 13:50:10.10 ID:0WuN67Vj0 実際オレ達はその家や彼女達について何も知らないけど、とりあえずここでは見やすいように葵って書くわ。 だだっ広い座敷に案内され、わけもわからんまま、ものものしい雰囲気で話が始まった。 伯父「息子さんは今安静にさせてますわ。この子らが一緒にいた子ですか？」 突然話を振られて戸惑ったが、オレとＡは何とか詳しくその夜の出来事をおっさん達に話した。 Ａ「は、はい？」 身を乗り出し今にも掴み掛かってきそうな勢いで怒鳴られた。 葵「箱の中央…小さな棒のようなものが、ある形を表すように置かれていたはずです。それに触れましたか？触れた事によって、少しでも形を変えてしまいましたか？」 オレ「はぁあの、動かしてしまいました。形もずれちゃってたと思います。」 オレとＡは顔を見合わせ、Ｂだと告げた。 719 ：姦姦蛇螺(13/17)：2011/06/26(日) 13:50:55.37 ID:0WuN67Vj0 ｢そんな…｣ それ以上の言葉もあったんだろうが、Ｂのお母さんは言葉を飲み込んだような感じで、しばらく俯いてた。 俗称は｢生離蛇螺｣／｢生離唾螺｣ もはや神話や伝説に近い話。 人を食らう大蛇に悩まされていたある村の村人達は、神の子として様々な力を代々受け継いでいたある巫女の家に退治を依頼した。 村人達が陰から見守る中、巫女は大蛇を退治すべく懸命に立ち向かった。 ところが、下半身を失っては勝ち目がないと決め込んだ村人達はあろう事か、巫女を生け贄にする代わりに村の安全を保障してほしいと大蛇に持ちかけた。 後になって、巫女の家の者が思案した計画だった事が明かされる。 720 ：姦姦蛇螺(14/17)：2011/06/26(日) 13:52:24.20 ID:0WuN67Vj0 おっさんと葵が交互に説明した。 伯父「これがいつからどこで伝わってたのかはわからんが、あの箱は一定の周期で場所を移して供養されてきた。その時々によって、管理者は違う。 管理者以外にゃかんかんだらに関する話は一切知らされない。 どうやら一昨日Ｂのお母さんが電話していたのは別のとこらしく、話を聞いた先方はＢを連れてこの家を尋ね、話し合った結果こっちに任せたらしい。 葵「基本的に、山もしくは森に移されます。御覧になられたと思いますが、六本の木と六本の縄は村人達を、六本の棒は巫女の家族を、四隅に置かれた壺は生き残られた四人を表しています。 なぜこのような形式がとられるようになったか。箱自体に関しましても、いつからあのようなものだったか。私の家を含め、今現在では伝わっている以上の詳細を知る者はいないでしょう。」 ただ、最も語られてる説としては、生き残った四人が巫女の家で怨念を鎮めるためのありとあらゆる事柄を調べ、その結果生まれた独自の形式ではないか…という事らしい。 722 ：姦姦蛇螺(15/17)：2011/06/26(日) 13:54:11.56 ID:0WuN67Vj0 ここまで話を聞いても、オレ達三人は完全に置いてかれてた。きょとんとするしかなかったわ。 だが、事態はまた一変した。 伯父「お母さん、どれだけやばいものかは何となくわかったでしょう。 Ｂ母「お願いします。何とかしてやれないでしょうか。私の責任なんです。どうかお願いします。」 Ｂのお母さんは引かなかった。一片たりともお母さんのせいだとは思えないのに、自分の責任にしてまで頭を下げ、必死で頼み続けてた。 伯父「何とかしてやりたいのはわしらも同じです。 ｢…えっ？｣ オレとＡは言葉の意味がわからなかった。下半身？オレ達が見たのは上半身だけのはずだ。 Ａ「あの、下半身っていうのは…？上半身なら見ましたけど…」 それを聞いておっさんと葵が驚いた。 伯父「おいおい何言ってんだ？お前らあの棒を動かしたんだろ？だったら下半身を見てるはずだ。」 ｢腕は六本でした。左右三本ずつです。でも、下半身はありませんでした。｣ 伯父「間違いねえのか？ほんとに下半身を見てねえんだな？」 おっさんは再びＢのお母さんに顔を向け、ニコッとして言った。 724 ：姦姦蛇螺(16/17)：2011/06/26(日) 13:56:13.26 ID:0WuN67Vj0 葵「巫女の怨念を浴びてしまう行動は、二つあります。 伯父「実際には棒を動かした時点で終わりだ。必然的に巫女の姿を見ちまう事になるからな。 葵「巫女本人である事には変わりありません。ですが、かんかんだらではないのです。 巫女とかんかんだらは同一の存在であり、別々の存在でもある…？という事らしい。 伯父「かんかんだらが出てきてないなら、今あの子を襲ってるのは葵が言うようにお遊び程度のもんだろうな。 緊迫していた空気が初めて和らいだ気がした。 それを見ておっさんと葵も雰囲気が和らぎ、急に普通の人みたいになった。 伯父「あの子は正式にわしらで引き受けますわ。お母さんには後で説明させてもらいます。 725 ：姦姦蛇螺(17/17)：2011/06/26(日) 13:57:34.52 ID:0WuN67Vj0 ちなみにＢの親父は一連の騒動に一度たりとも顔を出してこなかった。どういうつもりか知らんが。 オレとＡもわりとすぐ落ち着いた。理由はいろいろあったが、一番大きかったのはやっぱりＢのお母さんの姿だった。ちょっとした後日談もあって、たぶん一番大変だったはずだ。 一応他にわかった事としては、 あと、オレ達が森に入ってから音が聞こえてたのは、かんかんだらは柵の中で放し飼いみたいになってるかららしい。 供養場所は何らかの法則によって、山や森の中の限定された一部分が指定されるらしく、入念に細かい数字まで出して範囲を決めるらしい。 わかったのはこれぐらい。 オレ達の住んでるとこからはもう移されたっぽい。
Ｂ母「Ｂが…Ｂがおかしいのよ！昨夜あそこで何したの！？柵の先へ行っただけじゃなかったの！？」
同じ電話を受けたらしくＡも来ていて、二人でＢのお母さんに話を聞いた。
痛くて動かせないという事なのか、両手両足をぴんと伸ばした状態で倒れ、その体勢で痛い痛いとのたうちまわったらしい。
お母さんが何とか対応しようとするも、いてぇよぉと叫ぶばかりで意味がわからない。
必死で部屋までは運べたが、ずっとそれが続いてるのでオレ達はどうなのかと思い電話してきたという事だった。
いてぇいてぇよぉ！と繰り返している。
部屋に入ると、やはり手足はぴんと伸びたまま、のたうちまわっていた。
Ａ「しっかりしろ！どうしたんだよ！」
どうなってんだ…オレとＡは何が何だかさっぱりわからなかった。
一度お母さんのとこに戻ると、さっきとはうってかわって静かな口調で聞かれた。
というか、あれを見たっていうのが大部分を占めてしまってたせいで、何が原因かってのがすっかり置いてきぼりになってしまっていた。
何を見たかでなく何をしたかと尋ねるＢのお母さんは、それを指摘しているようだった。
Ｂのお母さんに言われ、オレ達は何とか昨夜の事を思い出し、原因を探った。
何を見たか？なら、オレ達も今のＢと同じ目にあってるはず。
だが何をしたか？でも、あれに対してほとんど同じ行動だったはずだ。
箱だってオレ達も触ったし、ペットボトルみたいなのも一応オレ達も触わってる。後は…楊枝…
しかも元に戻してない。オレ達はそれをＢのお母さんに伝えた。
すると、みるみる表情が変わり震えだした。そしてすぐさま棚の引き出しから何かの紙を取出し、それを見ながらどこかに電話をかけた。オレとＡは様子を見守るしかなかった。
一応二人とも真っすぐ家に帰ってみると、何を聞かれるでもなく｢必ず行ってきなさい｣とだけ言われた。
Ｂは前日にすでに連れていかれたらしい。
ちょっと遠いのかな…ぐらいだと思ってたが、町どころか県さえ違う。
新幹線で数時間かけて、さらに駅から車で数時間。
絵に書いたような深い山奥の村まで連れてかれた。
でかくて古いお屋敷で、離れや蔵なんかもあるすごい立派なもんだった。
Ｂのお母さんが呼び鈴を鳴らすと、おっさんと女の子がオレ達を出迎えた。
女の子はオレ達より少し年上ぐらいで、白装束に赤い袴、いわゆる巫女さんの姿だった。
挨拶では、どうやら巫女さんの伯父らしいおっさんは普通によくある名字を名乗ったんだが、巫女さんは｢あおいかんじょ｣？(オレはこう聞こえた)とかいうよくわからない名を名乗ってた。
名乗ると言っても、一般的な認識とは全く違うものらしい。
よくわからんが、ようするに彼女の家の素性は一切知る事が出来ないって事みたい。
Ｂ母「はい。この三人であの場所へ行ったようなんです。」
伯父「そうですか。君ら、わしらに話してもらえるか？どこに行った、何をした、何を見た、出来るだけ詳しくな。」
ところが、楊枝のくだりで
｢コラ、今何つった？｣といきなりドスの効いた声で言われ、オレ達はますます状況が飲み込めず混乱してしまった。
伯父「おめぇら、まさかあれを動かしたんじゃねえだろうな！？」
すると葵がそれを制止し、蚊の泣くようなか細い声で話しだした。
葵「形を変えてしまったのはどなたか、覚えてらっしゃいますか？触ったかどうかではありません。形を変えたかどうかです。」
すると、おっさんは身を引いてため息をつき、Ｂのお母さんに言った。
伯父「お母さん、残念ですがね、息子さんはもうどうにもならんでしょう。わしは詳しく聞いてなかったが、あの症状なら他の原因も考えられる。まさかあれを動かしてたとは思わなかったんでね。」
口には出せなかったが、オレ達も同じ気持ちだった。
Ｂはもうどうにもならんってどういう意味だ？一体何の話をしてんだ？
オレ達三人の様子を見て、おっさんはため息混じりに話しだした。
ここでようやく、オレ達が見たものに関する話がされた。
古くは｢姦姦蛇螺｣／｢姦姦唾螺｣
なりじゃら、なりだら、かんかんじゃら、かんかんだらなど、知っている人の年代や家柄によって呼び方はいろいろあるらしい。
現在では一番多い呼び方は単に｢だら｣、おっさん達みたいな特殊な家柄では｢かんかんだら｣の呼び方が使われるらしい。
依頼を受けたその家は、特に力の強かった一人の巫女を大蛇討伐に向かわせる。
しかし、わずかな隙をつかれ、大蛇に下半身を食われてしまった。
それでも巫女は村人達を守ろうと様々な術を使い、必死で立ち向かった。
強い力を持つ巫女を疎ましく思っていた大蛇はそれを承諾、食べやすいようにと村人達に腕を切り落とさせ、達磨状態の巫女を食らった。
そうして、村人達は一時の平穏を得た。
この時の巫女の家族は六人。
異変はすぐに起きた。
大蛇がある日から姿を見せなくなり、襲うものがいなくなったはずの村で次々と人が死んでいった。
村の中で、山の中で、森の中で。
死んだ者達はみな、右腕・左腕のどちらかが無くなっていた。
十八人が死亡。（巫女の家族六人を含む）
生き残ったのは四人だった。
箱に家紋みたいのがあったろ？ありゃ今まで供養の場所を提供してきた家々だ。
うちみたいな家柄のもんでそれを審査する集まりがあってな、そこで決められてる。
まれに自ら志願してくるバカもいるがな。
付近の住民には、いわくがあるって事と万が一の時の相談先だけが管理者から伝えられる。
伝える際には相談役、つまりわしらみたいな家柄のもんが立ち合うから、それだけでいわくの意味を理解するわけだ。
今の相談役はうちじゃねえが、至急って事で昨日うちに連絡がまわってきた。」
Ｂのお母さんはオレ達があそこに行っていた間に、すでにそこに電話しててある程度詳細を聞かされていたようだ。
そして、六本の棒が成している形こそが、巫女を表しているのです。
柵に関しては鈴だけが形式に従ったもので、綱とかはこの時の管理者によるものだったらしい。
伯父「うちの者でかんかんだらを祓ったのは過去に何人かいるがな、その全員が二、三年以内に死んでんだ。ある日突然な。
事を起こした当事者もほとんど助かってない。それだけ難しいんだよ。」
さっきも言いましたが、棒を動かしてさえいなければ何とかなりました。
しかし、今回はだめでしょうな。」
でも泣きながらとかじゃなくて、何か覚悟したような表情だった。
しかし、棒を動かしたうえであれを見ちまったんなら……
お前らも見たんだろう。お前らが見たのが大蛇に食われたっつう巫女だ。
下半身も見たろ？それであの形の意味がわかっただろ？」
葵「あなた方の前に現われた彼女は、下半身がなかったのですか？では、腕は何本でしたか？」
オレとＡは互いに確認しながらそう答えた。
すると急におっさんがまた身を乗り出し、オレ達に詰め寄ってきた。
オレ「は、はい…」
伯父「お母さん、何とかなるかもしれん。」
おっさんの言葉にＢのお母さんもオレ達も、息を呑んで注目した。
二人は言葉の意味を説明してくれた。
やってはならないのは、巫女を表すあの形を変えてしまう事。
見てはならないのは、その形が表している巫女の姿です。」
だが、どういうわけかお前らはそれを見てない。動かした本人以外も同じ姿で見えるはずだから、お前らが見てないならあの子も見てないだろう。」
オレ「見てない、っていうのはどういう意味なんですか？オレ達が見たのは…」
あなた方の命を奪う意志がなかったのでしょうね。
かんかんだらではなく、巫女として現われた。
その夜の事は、彼女にとってはお遊戯だったのでしょう。」
わしらに任せてもらえれば、長期間にはなるが何とかしてやれるだろう。」
Ｂが助かるとわかっただけで充分だったし、この時のＢのお母さんの表情は本当に凄かった。
この何日かでどれだけＢを心配していたか、その不安とかが一気にほぐれたような、そういう笑顔だった。
お前ら二人は、一応葵に祓ってもらってから帰れ。今後は怖いもの知らずもほどほどにしとけよ。」
この後Ｂに関して少し話したのち、お母さんは残り、オレ達はお祓いしてもらってから帰った。
この家の決まりだそうで、Ｂには会わせてもらえず、どんな事をしたのかもわからなかった。
転校扱いだったのか在籍してたのかは知らんが、これ以来一度も見てない。
まぁ死んだとか言うことはなく、すっかり更正して今はちゃんとどこかで生活してるそうだ。
母親ってのがどんなもんか、考えさせられた気がした。
それにこれ以来うちもＡんとこも、親の方から少しづつ接してくれるようになった。
そういうのもあって、自然とバカはやらなくなったな。
特定の日に集まってた巫女さんは相談役になった家の人。
かんかんだらは、危険だと重々認識されていながらある種の神に似た存在にされてる。
大蛇が山だか森だかの神だったらしい。
それで年に一回、神楽を舞ったり祝詞を奏上したりするんだと。
でも六角形と箱のあれが封印みたいになってるらしく、棒の形や六角形を崩したりしなければ姿を見せる事はほとんどないそうだ。
基本的にその区域からは出られないらしいが、柵などで囲んでる場合はオレ達が見たみたいに外側に張りついてくる事もある。
二度と行きたくないから確かめてないけど、一年近く経ってから柵の撤去が始まったから、たぶん今は別の場所にいるんだろな。
「姦姦蛇螺（かんかんだら）」感想・解説
「姦姦蛇螺（かんかんだら）」は、日本の民間伝承を巧みに取り入れた不気味な怪談話です。
物語は、好奇心旺盛な少年たちが禁忌を犯したことから始まります。彼らの軽率な行動が、古くから封じ込められていた恐ろしい存在「かんかんだら」を目覚めさせてしまいます。この展開は、人間の無知と不用意さがもたらす危険を象徴しており、読者に緊張感を与えます。
特筆すべきは、「かんかんだら」の起源を説明する背景設定の緻密さです。村人に裏切られた巫女の悲劇的な物語は、怨念の強さと恐ろしさを納得させるものとなっています。また、六角形の祭壇や特殊な箱など、独特の儀式的要素が物語に深みを加えています。
さらに、この話は単なる恐怖譚にとどまらず、家族愛や責任、伝統の重みといったテーマも含んでいます。Bの母親の必死の姿や、伝統を守り続ける特殊な家系の存在は、物語に人間的な要素を加えています。
結末部分では、予想外の展開で読者を驚かせつつも、希望の余地を残す巧みな構成となっています。全体として、日本の伝統的な怪談の要素を現代的な語り口で表現した秀逸な物語だと言えるでしょう。
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