「イジらないで、長瀞さん」に見る加虐/被虐嗜好と恋愛感情について
私が大好きな、「イジらないで、長瀞さん」という漫画作品。
既に個別記事を書いているのですが(↓)、もうちょっと掘り下げたいというか色々書きたいことが溢れてきたので、リライトではなく別記事という形で投稿したいと思います。
「理不尽暴力ヒロイン」について
さて突然ですが、「理不尽暴力ヒロイン」というキャラ属性をご存知でしょうか?
端的に表すとこんな感じです。
このヒロインは「他者、とりわけ主人公に対し特に理由なく、または他人に理解しがたい理由により暴力を振るうキャラクター」として扱われ、ツンデレやヤンデレの中の一類型としても見なされている。
Pixiv百科事典より
単に「鉄拳制裁」や「ツッコミ」の一形態として暴力を振るうヒロインはかなり昔から存在しました。エヴァのアスカとか。
この「理不尽暴力ヒロイン」とかつての「暴力ヒロイン」との違いは、読んで字のごとく、その理不尽さにあります。
たとえば「とらドラ!」の逢坂大河や「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の高坂桐乃など、相手に(大きな)非が無いのにも関わらず、暴力(言葉の暴力を含む)を振るうヒロインたちがこれにあたります。
彼女らの暴力の理由としては主に「照れ隠し」や「嫉妬」といった意味付けがされることが多い点をここで抑えておきます。
この属性は特に近年(と言っても「とらドラ!」は10年以上前の作品ですが……)になってから目立つようになりました。
ドSキャラについて
次に、心理的・物理的に相手を叩きのめすことに快感を覚える加虐性向を持ったキャラクター、いわゆる「ドSキャラ」です。
先述の「理不尽暴力ヒロイン」と似通っているように思えますが、照れ隠しや嫉妬ではなく、(意識的にせよ無意識にせよ)加虐行為そのものに快感を覚える点が異なっています。
こちらは「惡の華」の仲村さん、BLACK LAGOONのバラライカ、ローゼンメイデンの水銀燈といったキャラクターが挙げられるかと思います。
長瀞さんはどっち?
さて、ようやく本題ですが、「イジらないで、長瀞さん」のヒロイン長瀞さんは、「理不尽暴力ヒロイン」と「ドSキャラ」のどちらにあたるでしょうか? というのを取っ掛かりに考察していきたいと思います。
今まで述べてきたことを簡潔にまとめるとこうなります。
- 理不尽暴力ヒロイン:嫉妬、照れ隠しから暴力を振るう
- ドSキャラ:加虐行為が楽しい、気持ちいいから暴力を振るう
ここから判断すると長瀞さんは明らかに後者のように思えます。
序盤は特に「なんかナヨナヨしてキモい先輩がいるからオモチャにして遊ぼうw」という意図が透けて見えるようです。
キャラクター説明などにも「ドS」と書かれていますし、これはもうドSキャラで確定かな。ハイ終わり。
……としたいところですが、ちょっと待ってください。
独占欲について
長瀞さんの、先輩に対する「独占欲」が現れている場面があるんです。
一巻ではまだその兆候はあまり見られませんが、二巻あたりから多数確認できます。
特に、長瀞さんの友人たちが絡む際が顕著です。長瀞さんのように先輩をイジめようとした友人達を、長瀞さんが威嚇する場面が繰り返し展開されるのです。まるで「これは私のものだ」と言わんばかりに。
さて先程、「理不尽暴力ヒロイン」の要素としては暴力が嫉妬や照れ隠しに起因すると書きました。嫉妬とは即ち、独占欲からくるものでしょう。
即ち、長瀞さんは加虐行為そのものを楽しむ「ドSキャラ」であると同時に、「理不尽暴力ヒロイン」の要素も持ち合わせているのです。
長瀞さんは先輩に対して恋愛感情を抱いているのか?
さて、ここで当然気になるのが、果たして長瀞さんは先輩に対して「誰にも取られたくないオモチャ」以上の感情を持っているのか否か、という点です。
長瀞さんが顔を赤らめたり一人思い返して笑顔を見せたりするシーンから、一見、好意を持っているようには読み取れます。
また、さらりとネタバレしますが、三巻ではひょんなことから長瀞さんが先輩を自宅へ招きます。
少なくとも生理的嫌悪感のある異性を親のいない自宅へと招いたりはしないでしょう(まあ「何か」あっても物理的な戦闘力に差がありすぎるので心配しないでいいというのもあるのかもしれませんが……)。
イジって(イジメて)いた歳上の異性が時折見せる男らしさや言動にドキッとして惹かれていき二人の距離が次第に縮まっていく……というのが素直で順当な読み方でしょう。もっとも、イジめる長瀞さんとイジめられる先輩、という構図は崩さないとは思いますが。
しかし。しかしですよ?
実は、長瀞さんは先輩に対して恋愛感情なんてこれっぽっちも、一ミリも持っておらず、単に「自分のオモチャ」としか思っていなかったらどうでしょうか?
最高じゃないですか?
「いやどうみてもこれお互い意識してるやろ」と思わせておいて、実は先輩が勝手に片思いしてるだけ。長瀞さんの「教育」によって想いが高まった先輩は、クライマックスでついに告白。すると長瀞さんは「キッモ。そういうんじゃないんで」と突き放す。そう、これこそが長瀞さんの計画だったのだ。ドMの素質のある相手を見つけ、教育し、自分へと好意を向けさせ、そして最後は突き放す。もう先輩は用済みとなり、長瀞さんは次の獲物を探し始める……。
最高では?
このマンガ、かなり人気のある作品です。
その理由としてはやはり、長瀞さんも実は先輩に好意を持っているんだよ~というのを匂わせているからでしょう。読者は長瀞さんの意地悪や暴力を彼女なりの愛情表現だと受け取っているわけです。勝手に。そんなこと一言も書いてないのに。
だから774先生、まだ間に合います。
これだけ人気の作品で、ここまでお膳立てしておいて、ちょっと歪んだ好意のカタチかなと思わせておいて、その実恋愛感情は一ミリも無いというパターンを見せてくれたなら。
この作品は間違いなく伝説と化すでしょう。
可能性が薄いのは分かっています。商業誌でそこまで攻めた展開は編集さん的にもGOサインは出しづらいでしょう。しかし、ここまでやってくれたら、我々のような者たちは最高に気持ちがいいのです。
……大変長くなってしまいましたが、このあたりで今回の結論をまとめたいと思います。
結論
私も長瀞さんにイジめられた~~~~い!