神の目
286 :本当にあった怖い名無し:2010/07/02(金) 21:05:57 ID:PBOjONzy0
私は妻のセンスで、洋館風の家に住んでいる。
おかげで、私の相棒であり家族の猫にベストマッチする洋間が、私の部屋だ。
ロシアンブルーの毛並みがよく映える。彼の名前はノイズルド。
あの人ひとりが入るほどの大きな桐箱が、私の宝物である。
ノイズルドも気に入っているようで、蓋の上を寝床にしていた。なぜあんな箱が宝物なのかって?
人は信じないが、あの箱に身を収め目を閉じると未来に行けるのだ。
未来に行けると言っても、未来空間に自分の視覚と聴覚を投げ込むだけ。
未来を見て聞けるが、未来に直接干渉することは出来ない。
私はその箱を『神の目』と呼んでいる。
そして、その中で見ることの出来る未来映像を、『ミチビキ』と名付けた。私はミチビキのおかげで生きている。
というのも、私は神の目で私を殺す人間を見た。
そして私は“現在”の世界で、殺される前にそいつを殺してやった。それだけの事だ。
まだ何の事件にもなっていないようだ。
そいつの死体も完璧に隠した事だし、まだしばらくは大丈夫だろう。それにしても、ノイズルドの体調が最近良くないみたいだ。
お気に入りの『神の目』の蓋の上にも、もう近づこうとしない。
ノイズルドの未来を見てみようか。心配になってきた。私は神の目に顔を入れ目を閉じた。
そこで見たのは、腐敗して原型をギリギリとどめている愛猫の姿だった。
私は愛する相棒の悲惨な姿と、その腐敗臭にむせながら、“現在”に帰った。まだ元気な唯一の家族を抱きしめ、私は未来を見たことに猛烈な後悔をした。
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解説
・“現在”の世界で、殺される前にそいつを殺してやった
「私」が殺したのは妻。
最終段に「まだ元気な唯一の家族」とある。
・その腐敗臭にむせながら
「未来空間」に行けるのは「視覚」と「聴覚」だけなので、「腐敗臭」は現在のもの。
桐箱「神の目」の中に腐敗した妻の遺体が入っているのだろう。
だからノイズルドも「『神の目』の蓋の上にも、もう近づこうとしない」。
・「ノイズルド」
"noisuled"。逆にすると"delusion"。意味は「妄想」。
つまり、「神の目」「ミチビキ」自体が妄想だったことを示唆している。
・腐敗して原型をギリギリとどめている愛猫の姿
「ミチビキ」が「私」の妄想であるとしたら、「私」は妄想を根拠に妻を殺害したことになる。
「まだ何の事件にもなっていないようだ」というところから事件発覚への恐れが感じられる。
腐敗したノイズルドの姿は、いずれ警察に捕まり、ノイズルドの面倒をみる人間もいなくなるという潜在意識が見せたのかもしれない。