リアル(3ページ目) S先生「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。Tちゃん、時間かかりますけど何とかしてあげますからね」 「見た目が怖くても、自分が知らないものでも自分と同じように苦しんでると思いなさい。救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」 S先生はお経をあげ始めた。お祓いのためじゃ無くアイツが成仏出来るように。その晩、額は裂けてたしよくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど本当にぐっすり眠れた。(お経終わってもキョドってた俺のために笑いながらその日は泊めてくれた) 208:リアル:2011/05/13(金) 13:13:45.30 ID:rKgs8JSd0 関係者でも何でもないんであまり書くのはどうかと思うが少しだけ。 本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。 210:リアル:2011/05/13(金) 13:21:22.89 ID:rKgs8JSd0 本山に預けてもらって一ヶ月経った頃S先生がいらっしゃった。 顔がひきつった。 S先生「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね」 S先生「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」 俺はS先生の言葉に従った。あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。 211:リアル:2011/05/13(金) 13:25:33.18 ID:rKgs8JSd0 実はS先生に認められた気がして少し嬉しかった。 「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」 照れながら答えたら S先生「そうじゃなくて帰っちゃ駄目みたいなのよ」 また顔がひきつった。 アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。 212:リアル:2011/05/13(金) 13:27:22.34 ID:rKgs8JSd0 …コンパしてやがった。 とりあえず電話をきり「殺すぞ」とメールを送っておいた。 所詮世の中他人は他人だ。 言葉で許されるよりも殴られた方がすっきりする事もあるしね。まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。 213:リアル:2011/05/13(金) 13:30:55.97 ID:rKgs8JSd0 ○○の言葉が状況を物語っていた。 ○○「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、“俺は違う“とか“そんな事しません“とか言い出して怖いんだもんよ」 アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて頭の中の映像を消すのに苦労した。 その後、林がどうなったかは誰も知らない。 ○○曰く「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。 だから「何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないか」としか言えなかった。 214:リアル:2011/05/13(金) 13:34:11.55 ID:rKgs8JSd0 アイツを見てから二年が経った頃、S先生から「もう心配いらなそうね。 本当に終ったのか…俺には分からない。S先生はその三ヶ月後、他界されてしまった。 S先生のお葬式から二ヶ月が経った。 祖母から一通の手紙が来たのはそんなごくごく当たり前の日常の中だった。 S先生の手紙、今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、 216:リアル:2011/05/13(金) 13:37:20.60 ID:rKgs8JSd0 あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生本当は凄く怖かったの。 本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。あの時は、運が良かったのね。 このまま帰ったら酷い事になるって思ったの。 でも、もう大丈夫なはずよ。近くにいなくなったみたいだから。 218:リアル:2011/05/13(金) 14:02:03.21 ID:rKgs8JSd0 最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。 Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう? 本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。決して終らせないの。 いい?Tちゃん。 嘘ばかりついてごめんなさい。 219:リアル:2011/05/13(金) 14:04:20.50 ID:rKgs8JSd0 急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。もう、逃れられないんじゃないか? S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか? 林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか? S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、「嘘をつかなければならないほど」の事だったのか…。 220:リアル:2011/05/13(金) 14:06:27.13 ID:rKgs8JSd0 結局、理由も分からないし、都合よく解決できたり何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。 でも、偶々にしてはあまりにも辛すぎる。 俺に言える事があるとしたらこれだけだ。 222:リアル(最後):2011/05/13(金) 14:10:29.09 ID:rKgs8JSd0 ただ…、謝りたいのはそこじゃあない。 俺は○○だよ。 ‥今更悔やんでも悔やみきれない。
俺はどうすればいいのか分からなくなったよ。
アイツは絶対に悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。
S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから…。
それなのにS先生がアイツを庇うように話してたから…。
この一言には本当に救われたよ。 あぁ、もういいんだ。終るんだって思った。やっと安心したんだ。
S先生に教えられたことを書きます。俺にとって一生忘れたくない言葉です。
翌日、朝早く起きたつもりがS先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。
S先生「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」
S先生が属している宗派は前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、
信者の方も修行されてる方も日本全国にいらっしゃるのね。
教えは一緒なんだけど地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。
俺が連れていってもらったのが西の本山。本山に暫くお世話になって、
自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、
アイツが少しでも早く成仏出来るように本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。
その話を聞いて一番喜んだのが祖母、まだ信じられなそうだったのが親父。
最後は俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。
本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。
ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。
S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位(「寂しいけど序列ができちゃうのね」ってS先生は言ってた)にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。
俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど皆さんと同じような生活をした。
多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。
その中で、自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。
もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、家族親族まで祟りで没落してしまって
身寄りが無くなってしまったけど、家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか…
俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人がこんなにいるなんて知らなかったから…。
厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、
あるいはS先生の話があったからなのか恐怖は大分薄れた。
(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)
S先生「あらあら、随分良くなったみたいね」
俺「えぇ、S先生のおかげですね」
S先生「あれから見えたりした?」
俺「いや…一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」
S先生「そんな事ないわよ?」
「でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。
その人達を少しでも多く助けてあげるのが私達の仕事なのよ」
多分だけどS先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。
それに一日はあっという間なんだけど…何て言うか時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。
(何か矛盾してるけどね)そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。
その間S先生は(二ヶ月前に来たきり)こっちには顔を出さなかった。
やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。
でも、哀しいかな流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離去れると物足りない気持ちが強くなってた。
実に二ヶ月ぶりにS先生がやって来てやっと本山での生活は終りを迎えようとしていた。
身支度を整え、兎に角お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言いS先生と帰ろうとしたんだ。
でも気付くと横にいたはずのS先生がいない。「あれ?」と思って振り向いたら少し後にいたんだ。
「歩くの速すぎたかな?」って思って戻ったら優しい顔で
「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。
俺「え?」
S先生「だってまだ残ってるから」
結局、本山を降りる事が出来たのはそれから二ヶ月後だった。
実に五ヶ月も居座ってしまった。
多分、こんなに長く家族でも無い誰かに生活の面倒を見てもらう事はこの先ないだろう。
S先生から「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい。」と言われた。
アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか本当のところは分からないからだそうだ。
長かった本山の生活も終ってやっと日常に戻って来た。
借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、
実家には俺の荷物が運び込まれてた。
怖すぎたらしくその日はなにもしないで帰って来たんだってさ。
翌日、仕方無いんで意を決してまた部屋を開けたら臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。
母には申し訳ないが俺が見なくて良かった
実家に戻り、実に約半年ぶりくらいに携帯を見ると(そーいやそれまでは気にならなかったな。)物凄い件数の着信とメールがあった。 中でも一番多かったのが○○。
メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、
謝罪とかこうすればいいとかこんな人が見つかったとかまめに連絡が入ってた。
母から、○○が家まで来た事も聞いた。 戻って二日目の夜、○○に電話を入れた。
電話口が騒がしい。○○は呂律が回らず何を言っているか分からなかった。
翌日、○○から誤りたいから時間くれないか?とメールが来た。電話じゃなかったのは気まずかったからだろう。
夜になると、家まで○○が来た。わざわざ遠いところまで来るくらいだ。相当後悔と反省をしていたのだろう。(夜に出歩くのを俺が嫌ったからってのが一番の理由である事は言うまでもない)
玄関を開け○○を見るなり二発ぶん殴ってやった。
一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。
○○に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり…今思うと当たり前の日常だなぁ。
○○からは、あの晩のそれからを聞いた。
あの晩、逃げたした時には林は明らかにおかしくなっていた。
林の車の中で友達と待っていた○○には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。
でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。
「反抗したりもたついたりしたら何されっか分かんなかったんだよ」
○○は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。
俺の家に戻って来なかったのは単純に怖すぎたからだって。
「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。
俺が○○でも勘弁だしね。
さすがに今回の件では○○も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。
結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、
唆されて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ…)で紹介したんだと。
でもこんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが…
こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、
多分とか~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。
その後、俺はS先生の言い付けを守って毎月一度、S先生を訪ねた。
最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。
○○も、俺への謝罪からか何も無くても家まで来ることが増えたし、
S先生のところに行く前と帰ってきた時には必ず連絡が来た。
Tちゃん、これからはたまに顔出せばいいわよ。でも、変な事しちゃだめよ」って言ってもらえた。
敬愛すべきS先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。ただ、今は終ったと思いたい。
寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め俺は日常に戻っていた。
慌ただしい毎日の隙間にふとあの頃を思い出す時がある。あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、
本当に起きた事だったのか分からなくこともある。
こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。
封を切ると、祖母からの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。
祖母の手紙には俺への言葉と共にこう書いてあった。
“S先生から渡されていた手紙です。四十九日も終わりましたのでS先生との約束通りTちゃんにお渡しします“
そのままで書く事は俺には憚られるので崩して書く。
Tちゃんへ
ご無沙汰しています。Sです。あれから大分経ったわねぇ。
もう大丈夫?怖い思いをしてなければいいのだけど…。
いけませんね、年をとると回りくどくなっちゃって。
今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。
でも悪い事をした訳じゃ無いのよ。あの時はしょうがなかったの。 でも…、ごめんなさいね。
だってTちゃんが連れていたのはとてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。
だけどTちゃん怯えてたでしょう?だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。
Tちゃん、本山での生活はどうだった? 少しでも気が紛れたかしら?
Tちゃんと会う度に先生まだ駄目よって言ったでしょう? 覚えてる?
だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど帰らせられなかったのね。
先生、毎日お祈りしたんだけど中々何処かへ行ってくれなくて。
でもねTちゃん、もし…もしもまた辛い思いをしたらすぐに本山に行きなさい。
あそこなら多分Tちゃんの方が強くなれるから中々手を出せないはずよ。
S先生の手紙の続き
あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。
もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。
決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。
でもね、もしもまだ終っていないとしたらTちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。
苦しんでる姿を見てニンマリとほくそ笑みたいのね。
悔しいけど、先生達の力が及ばなくて目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。
あの人達も助けてあげたいけど…、どうにも出来ない事が多くて…。
先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。
気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。
決して安心しきっては駄目よ。いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、
余計な事はしないでおきなさい。先生を信じて。ね?
信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。
それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。
Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。
読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。
気持ちの悪い汗もかいている。鼓動が早まる一方だ。一体、どうすればいい?
まだ…、終っていないのか?
もしかしたら、隠れてただけでその気になればいつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか?
一度疑い始めたら、もうどうしようもない。全てが疑わしく思えてくる。
だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?
結局…、何も変わっていないんじゃないか?
一体アイツに何を囁かれたんだ。俺とは違う、もっと直接的な事を言われて…、おかしくなったんじゃないか?
結局、それが分かってるからS先生は最後まで心配してたんじゃないのか?
疑えば疑うほど混乱してくる。どうしたらいいのかまるで分からない。
ここまでしか…俺が知っている事はない。
二年半に渡り今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。
何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、あるいはそれが何かしらの因果関係にあったのか…。
俺には全く理解できないし、偶々としか言えない。
果たしてここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?犯していないだろう?
だとしたら…何でなんだ?不公平過ぎるだろう。それが正直な気持ちだ。
「何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。
最後まで、誰かが終ったって言ったとしても気を抜いちゃ駄目だ」
そして…、最後の最後で申し訳ないが俺には謝らなければいけない事があるんだ。
この話の中には小さな嘘が幾つもある。これは多少なりとも分かり易くするためだったり、
俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。
おかげで意味がよく分からない箇所も多かったと思う。合わせてお詫びとさせて欲しい。
もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。
気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。
そうしなければ伝わらないと思ったから。
矛盾を感じる事もあるだろう。がっかりされてしまうかもしれない…。
でもこの話を誰かに知って欲しかった。