中学生の頃の話だ。
自転車で通う通学路の一区間に、沿うように走る高台があった。
道路の反対側の道を通るとガードレールの向こうが少しだけ見えて、だだっ広い草むらが拡がっているようだった。
どこから上がれるのかも、誰の土地なのかもわからないけれど、とにかく広いことだけは分かる場所。
中学生の私は、そこに「ゲート」がある、と妄想していた。
ミッドガルへ向かうゲートだ。
当時私はFF(ファイナルファンタジー)Ⅶにどハマりしていて、最初から始めてはエンディングを迎え、また最初からやり直すということをひたすら繰り返していた。
20周はしたと思う。暇さえあれば攻略本を読みふけり、セリフもほとんど暗記していた。
ミッドガルというのはそのFFⅦに出てくる最初の町、というか都市のことだ。
複数の柱で支えられた巨大な円形の台地の上下に人々が暮らし、都市全体が高い外壁に囲まれている。80年代のSF映画に出てきそうな設計のそこは、ストーリー的にも重要な意味を持つ場所だ。
「ゲート」を通った私はそこで、主人公のクラウドたちと出会い、共に冒険に出る……という妄想を、中学生の私はいつもしていた。
主人公一行に違和感無く溶け込める設定も色々考えた。
FFⅦには日本をモチーフにしたウータイという地域が登場した。ウータイはいわゆる忍びの里だ。
妄想の中で私は、ウータイで修行を積んでから旅立つのだった。ミッドガルの怪しい動きを調査する任務を受け、極東の国から極秘裏に潜入したところで主人公一行に出会う……という流れだ。そしてユフィの弟弟子だった。
ユフィというのはウータイ出身のくノ一の少女で、私が一番好きなキャラクターだった。わりかし人気のキャラクターなので、後の様々な作品にも登場している。年齢は16歳。だから中学生の私は弟弟子なのだ。
こんな妄想をしているくらいだから察しがつくと思うが、あまり楽しい思春期ではなかった。はっきり言って辛いことばかりだった。
「いざとなったらゲートに逃げよう。何もかも捨ててゲートに入ろう」
そんな妄想だけが心の支えだった。
辛い時期をなんとか乗り越えられたのも、そんな妄想があったお陰だと思っている。
もしもFFⅦに出会えていなかったら……と振り返る。まあその時は、なにか別の作品世界へと向かうゲートに変わっていただけなのかもしれない。それでもやはり、妄想に、「ゲート」の存在に救われるという事実は変わらないと思う。
大学生になって地元に帰省した際、暇を持て余していた私は思い切って高台の上に行ってみた。
入口が無いように思えたそこは、何のことはない、逆方向、裏手から回れば簡単に辿り着くことができた。
だだっ広い草原に見えていたそこは、幅の狭い売地が拡がっているだけで、単なる住宅地だった。
失望と納得と後悔と滑稽さがぐちゃぐちゃに入り混じって、思わず私は笑ってしまった。
もう数年もすれば、兄弟子どころかユフィの父親でもおかしくない年齢になる。
それでも。今でも私は信じている。
「ゲート」は確かにそこにあったんだ。
それだけは間違いないんだよ。
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