「アナタハンの女王事件」
「アナタハンの女王事件」という事件をご存知でしょうか？
第二次世界大戦末期から終戦後にかけて、サイパン島の北方約117キロに位置する全長およそ9km、幅約4kmの小さな孤島「アナタハン島」で実際に起きた出来事です。
島内には当時、32人の人間。そして内訳は31人の男性と、若い女性が1人。
起こったのは1人の女性を巡る、血みどろの争い。
事件の詳細を見てみましょう。
1943年10月 「女王」、アナタハン島へ
沖縄に生まれた女性、比嘉和子さんは、若くして結婚した夫がフィリピン海マリアナ諸島の火山島・アナタハン島に転勤したため、共に島へ移ることになります。
太平洋戦争の最中、1943年10月のことでした。
移住後しばらくして、夫は家族を迎えに行くため一度島を離れます。
しかしこのタイミングでアメリカ軍とのサイパンの戦いが始まり、アナタハン島も凄まじい空襲を受けます。和子は命からがらジャングルに逃げ生命の危機を免れましたが、戦闘に巻き込まれたと思われる夫は消息不明になってしまいます。
島に残ったのは夫の上司であった男性のみ。彼もまた攻撃により直前に島を発った家族の消息がわからなくなっていました。
この時点で島にいる人間は、和子と上司の男と、従業員として雇っていた島の原住民45人の計47人でした。
島に残された日本人の二人は、やがて事実上の夫婦となって生活を始めます。
6月、日本人31人が島に漂着
攻撃後、米兵が島へ上陸し、原住民たちをすべて連れ去ってしまいます。
やがてサイパン攻撃により撃沈された食料補給船の乗組員31名が、海を泳いでアナタハン島に流れ着きました。
33人の日本人だけがアナタハン島に残されたのです。
元々食料資源に乏しい島だったことに加え、断続的に空襲が続く環境下では畜産や農業を行うこともできません。
蓄えられていた食糧は一月ほどで尽き、32人の男と和子は、小さな集団に分かれてサバイバル生活を始めます。
拳銃の発見
籍を入れたわけでもない和子と夫の元上司ですが、他の日本人を刺激しないよう正式な夫婦を名乗ることにします。
彼女たち33人が島での生活を始めて1年と少し、戦争は終わりました。
島に残っている日本人がいることを知った米軍は終戦後、拡声器で島の住人達に日本の敗戦を告げました。
しかし、島の日本人たちは敵の罠だと思い、これを信じませんでした。
「鬼畜米英」と教え込まれていたことはもちろん、不発弾の処理などで周辺の島でも断続的に爆発音が続いていたことも彼らが終戦を信じなかった理由の一つと言われています。
それから更に1年ほど後、島の山中に米軍の爆撃機B-29の残骸が見つかります。そこから、破損した拳銃が数丁発見されました。そして壊れた拳銃から、2人の男が2丁の拳銃を組み立て直します。
このときから、「女王」たちの運命は狂い始めます。
殺人の始まり
2丁の拳銃は、組み上げた二人の男が一丁ずつ所有する形となりました。
小さな孤島、閉鎖された集団において、2人は絶大な力を手にしたのです。
その頃には和子と元上司が本当の夫婦ではないことが明るみになっていました。
2人はその力をもとに和子を妻とします。しかし元上司と拳銃持ち2人、計3人で一人の女性を取り合う歪な関係は長く続きません。
まず「木から落ちた」と最初の死人が出ますが、明らかな不審死でした。
その後口論の末、拳銃持ちの1人がもう1人を撃ち殺します。これで拳銃持ちは1人だけです。
しかし残った方の1人も夜釣りの最中に海へ落ちて死亡します。この人は泳ぎが得意であったはずで、こちらも明らかな不審死です。
元上司も「屋根の修理中に」死亡したと不審死を遂げます。
この時点で和子……女王を手にした男3人は全員死亡しました。
拳銃はまた新たな男の手に収まり、1人、また1人と男たちが死んでいきます。
新たに拳銃を手にした男もやがて死体となって見つかります。
流石に危機感を覚えた住民たちは話し合いの末、拳銃を2丁とも海へ捨てますが、しかし一度歯止めがきかなくなった流れはもう止まりません。
最終的に、行方不明、不審死、病死を含め32人いた男は19人にまで減っていました。
「女王」の救出
やがて男たちは「女王」が自分たちを狂わせたすべての元凶であるとし、和子の殺害を計画しました。
これを知った和子はジャングルを抜けて逃亡、アナタハン島の近くを巡回していた米軍の捜索船「ミス・スージー号」救助を求め、1人「投降」したのです。
先に救助された和子からの情報をもとに、島に残された男たちが救助されたのはそれから更に半年後となりました。
事件の影響
一連の事件がその後センセーショナルに報道され、「アナタハンの女王事件」は一大ブームを巻き起こしました。
和子のブロマイドが飛ぶように売れ、「久しぶり」という挨拶の代わりに「アナタハン」という言葉が流行ったというから驚きです。
それどころか、事件を元にした映画まで何本も制作され、和子本人が出演したものまでありました。
なお余談ですが、この事件を題材にした舞台『女王と呼ばれた女』ではあの鳥居みゆきさんが主演をつとめています。
www.shinjukumura-live.com
「アナタハンの女王事件」まとめ
絶海の孤島にヒロイン1人が残され、男たちは女性を巡って争いを……なんてフィクションで使い古されたネタに思えてしまいますが、実際に起こった出来事とは驚きです。
帰国後の比嘉和子
アナタハンの女王事件 - Wikipedia より
なお和子の本当の夫ですが、実はサイパン攻撃の中生き残っており、帰国して再婚しておりました。
「これも戦争が生んだ悲劇です」と和子本人が帰国後のインタビューで語ったとされます。
和子本人はというと、一時は時の人となるも、興行師に騙され大金を失います。
しかし34歳の時に再婚し、ようやく平穏な生活を手にしました。
好奇の目で見てしまいがちですが、詳細から結末まで知ると複雑でやりきれない思いの去来する事件です。
今後も興味深い事件があれば紹介していきたいと思います。ではでは。
参考：
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%82%BF%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%A5%B3%E7%8E%8B%E4%BA%8B%E4%BB%B6
http://yabusaka.moo.jp/anatahan.htm
https://tanken.com/anatahan.html
http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/3375.html
