つきまとう女(5ページ目) ジョンは、この戦いの勝利宣言をした。 754 :光 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 00:32:49 ID:j0e1jDQW0 755 :光 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 00:33:30 ID:j0e1jDQW0 その後、俺は安堵からか高熱を出し、病院に緊急入院した。 入院中、ジョンが何度も見舞いに来てくれた。こいつは本当に良い奴だ。 後日、俺は改めて社長にお礼を言いに行った。 768 :光 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 00:47:18 ID:j0e1jDQW0 その後、俺たちは家族でレストランに入った。 食後に俺はトイレに入った。入り口を開け、トイレの中に入る。 786 :顛末 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 01:19:48 ID:j0e1jDQW0 788 :顛末 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 01:20:30 ID:j0e1jDQW0 789 :顛末 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 01:21:10 ID:j0e1jDQW0
泣いているキチガイ女に、以前のような気味の悪さは無かった。
キチガイ女の声は、前に聞いた声と変わらない。
確かにキチガイ女だった。
それでも不思議なくらいに、以前とは印象が違う。
俺は不思議だった。後ろ盾を失って暴れるかと思いきや、キチガイ女は俺に抱きつき、静かに泣いている。
「お前…もしかして…」
俺はそこまで言って言葉を呑んだ。俺にはその先の言葉が言えなかった。
その時、洋館の玄関が静かに開く。
そこにはジョンが居た。
「お兄さん、迎えに来ました」
ジョンはそう言うと階段を昇り、キチガイ女を睨む。
キチガイ女は何もすることなく、俺からゆっくり離れると、ジョンを素通りして階段を静かに降りていった。
階段の下で立ち止ったキチガイ女は、ゆっくりと振り返り俺を見つめた。
女の顔に俺は驚いた。
以前のような禍々しさは無く、キレイな顔だった。
今までとは違う、少女のような切なく悲しい表情が、俺の眼に焼き付いた。
女は踵を返し、振り返ることなく玄関の向こう側に消えていった。
「どういうことだ、あの女…」
俺は呟いた。想像した展開とはあまりにも違う幕切れだった。
「あの女の後ろ盾も、あの3人も消えていなくなりました。
もう勝ち目は無いと諦めたのでしょう。
あの女も、お兄さんの中から完全に消えました。俺たちの勝ちです」
しかし、俺の中に歓喜の感情は無かった。
俺を椅子に縛り付けていた拘束具をジョンは外した。
椅子から立ち上がった俺の体は、不思議なくらいに軽かった。
俺とジョンは連れ添い、ゆっくりと階段を降りた。
玄関の先には、眩しい程に光が降り注いでいた。まるで希望の光だ。
俺たちは玄関の向こう側に進んだ。
その時、俺の視界の端に人影が見えた。
振り返ったその先には、俺の良く知る人物が立っていた。
「親父…」
親父は静かに頷くと、本当に優しく微笑んだ。
俺の眼からは止め処も無く涙が溢れた。親父の優しい笑顔に涙が止まらなかった。
俺は親父の前で子供のように号泣した。本当に子供のように…。
「お兄さん」
俺はジョンに呼ばれて目覚めた。
地上20階に位置する豪華なホテルの部屋。俺たちは戻ってきた。
「ああ…、長いこと悪い夢を見ていた気分だ。
でも…最後は良かったよ…。ジョン、ありがとうな」
「いえ、俺だけじゃありません。社長や親父さんも頑張りました。勿論、お兄さんも。
あの囮作戦の時、お兄さんは敵の手から逃れる為に、ビルから飛び降りましたよね。
現実じゃないと分かっていても、あんなことを普通は出来ません。
しかも、敵の本丸に向かって啖呵まで切って。
そのお兄さんの勇気があればこそですよ」
「いや、俺は…」
そう言って俺は黙り込んだ。俺は一人だったら、とっくに死んでいた。
そして、今も情けないことを考えていた。
「なあ、ジョン。あの女のことなんだが…」
ジョンは俺にコーヒーを差し出した。
「言いたいことは判ります。最後に俺もあの女に侵入しましたから…。
でも、気にしないで下さい。全部、終わったんです」
俺はコーヒーを飲みながら、窓の外に広がる夜景を眺めた。
切ない思いを振り切るように、俺は夜景を眼に焼き付けた。
3日間程高熱に苦しんだ後、俺は奇跡的な回復を遂げ、
折れていた左腕の骨も、医者が眼を丸くする程の速さで回復した。
最悪だった体調も完全に復調し、俺は以前の健康な体を取り戻した。
最悪と言える騒動の中で、ジョンと出会えたことだけは神に感謝したい。
相変わらずのヒステリックぶりで、
俺が感謝の言葉を述べると、
「感謝の言葉より感謝の金をよこせ!」と言ってきた。
ある意味予想通りだったので問題はない。
それから社長に、「絶対に父親の墓参りに行けよ」と言われた。
俺は久しぶりに、家族揃って親父の墓参りに行った。
久しぶりに来た親父の墓は、土埃で汚れていた。
俺は予め用意していた掃除用具を取り出し、念入りに親父の墓を磨いた。
「家族を助けてくれてありがとう。守ってくれてありがとう」
そんな気持ちを込めて念入りに磨いた。
母も姉も必死に墓を磨く俺を眺めて、何故そんなに一生懸命に磨くのかと不思議そうにしていた。
俺は母と姉の二人にも掃除道具を渡し、墓磨きに協力してもらった。
心なしか、親父の笑い声が聞こえた気がした。
久しぶりの家族団欒だった。
そこはビルの屋上だった。
驚いた俺は周囲を見渡す。
俺の視線の先には、あの騒動の本丸の男が、フェンスに寄りかかりながらタバコを咥えていた。
「よお」
気軽な挨拶をすると男は俺に近づく。
「俺に近付くんじゃねぇ!!」
俺は怒鳴った。
「はは、怖いねぇ。そんなに怒鳴るなよ。なにも危害を加える気はねぇよ」
男は尚も俺に近づく。
「なんのつもりだ!?いったい、何しに来た!?」
怒鳴る俺を無視して、男は俺の眼前に立つと、思いがけない言葉を発した。
「事の顛末を知りたくないか?」
「事の顛末だと?」
男は俺を嘲るように微笑んだ。
「心配するな。あのオカマ社長の許可は取ってあるよ」
男は俺の胸に拳を当てた。
すると男の拳は何の手応えも無く、俺の体をすり抜けた。
「ほらな。俺からお前に何かすることは出来ないんだよ。
あのオカマにお前は完全にガードされているし、俺もあのオカマに能力の根源を握られている。
今の俺は、オカマに金玉抜かれた腑抜けなんだよ」
俺は後ずさりをした。
「俺に何を聞かせたい?」
男はどこからか椅子を取り出し、腰掛けた。
「さっきも言ったろ?事の顛末さ。
どうして俺と妹がお前を狙ったのか。何故、殺そうとしたのか。
お前には聞く権利があるんだよ」
確証は無かったが、男に害意はないように思えた。
確かに俺も、この騒動の動機と理由が知りたい。
俺の心にある霧の正体が知りたかった。
「分かった。なら聞かせてくれ。事の顛末を」
「そうこなくちゃな。わざわざ、来た甲斐が無い」
そう言うと男は、タバコを地面に捨て足で揉み消した。
「初めにお前に出会ったのは、お前がバイクで小樽に来たときだ。
確かツーリングだっけ?お前はそれをやりに来たんだ。
俺はたまたま小樽に用が有って来ていた。
その時、妹の奈々子がお前に目をつけたんだ。
何故なら、お前が奈々子にとって羨ましい存在だったからだ。
まるで光に群がる虫のように、奈々子はお前に惹き寄せられた」
俺は困惑した。
「何故俺なんだ?俺の何が羨ましかったんだ?」
「お前の中に、温かい家族の繋がりが見えたのさ。
それが奈々子には、心底羨ましかった。
俺たちの家族はな、言っちゃ何だが、クソの肥溜めそのものだった。
特に奈々子は生前、そうとうあのクソ親父に責められた。
口に出すのもおぞましいぜ。実の父親が娘を性の対象にするなんてよ。
しかも親父は極端なサドでよ。ひでぇもんだった。
だが、俺も人のことは言えねぇ。苦しむ妹を、見て見ないふりしたんだからな。
母親はとっくの昔に死んで居なかった。
だから妹にとっちゃ、俺は唯一の頼りだったんだ。それを俺は見捨てた。
面倒臭かったんだよ、正直言って。俺にはどうでもいいことだった。
奈々子にとっては絶望的だったろうよ。アイツは一人で警察に行き、助けを求めた」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
俺は男の話を遮った。
「気持ち悪くなったか?そうだろうな。クソの肥溜めの話だ。無理も無い」
男はポケットからタバコを取り出し、口に咥えた。
さっきまで人を嘲るように笑っていた男の顔は、深海のような冷たい表情だった。
話の内容よりも俺は、この男の表情に恐怖を感じていた。
「いいか?続けるぜ?」
俺は無言で頷いた。なるべく男の顔を見ないように気を付けた。
「奈々子は警察に助けを求めたが、全て無視された。
親父はクソだが、精神科医としてはエリートだった。
警察にも協力していたし、署の幹部とも仲が良かった。
奈々子は対応した警察官に、人格ごと全てを否定されて追い返されたんだよ。
更に絶望した奈々子は、遂に精神を病んで、精神病院に入院した。
しかも、親父の病院にな。
そこでも奈々子は酷い扱いを受けた。
警察に訴えた奈々子を、親父は許さなかった。
奈々子の担当の看護師に言いつけて、奈々子を毎日のように暴行させた。
信じられるか?それをやらしたのが実の父親なんだぜ?
そして奈々子は自殺した。どこからか持って来たロープで首を吊ってな。
そこで俺は初めて泣いたよ」
黙って俺は男の話を聞いていた。
男の家族と俺の家族。まるで正反対の家族だった。
「奈々子は自殺した後、この世を彷徨い、俺の所に来た。
奈々子には才能はあったが、俺のような能力はなかった。
だから、俺に復讐の話を持ちかけたんだ。俺に協力しろってな。
勿論、それを俺は断ることも出来た。
だが俺は、奈々子が死んでから初めて気付いた感情に逆らえなかった。
俺は奈々子を愛していた。自分勝手な話だがな」