ゴーストインザヘッド

元引きこもりのオタクが送るサブカル・エンタメ系ブログ。マンガ、ラノベ、ゲーム、ガジェットなどを中心に書いていきます。読んだ人をモヤモヤさせることが目標です。

つきまとう女(5ページ目)




つきまとう女(5ページ目)

752 :光 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 00:32:08 ID:j0e1jDQW0
泣いているキチガイ女に、以前のような気味の悪さは無かった。
キチガイ女の声は、前に聞いた声と変わらない。
確かにキチガイ女だった。
それでも不思議なくらいに、以前とは印象が違う。
俺は不思議だった。後ろ盾を失って暴れるかと思いきや、キチガイ女は俺に抱きつき、静かに泣いている。
「お前…もしかして…」
俺はそこまで言って言葉を呑んだ。俺にはその先の言葉が言えなかった。
その時、洋館の玄関が静かに開く。
そこにはジョンが居た。
「お兄さん、迎えに来ました」
ジョンはそう言うと階段を昇り、キチガイ女を睨む。
キチガイ女は何もすることなく、俺からゆっくり離れると、ジョンを素通りして階段を静かに降りていった。
階段の下で立ち止ったキチガイ女は、ゆっくりと振り返り俺を見つめた。
女の顔に俺は驚いた。
以前のような禍々しさは無く、キレイな顔だった。
今までとは違う、少女のような切なく悲しい表情が、俺の眼に焼き付いた。
女は踵を返し、振り返ることなく玄関の向こう側に消えていった。
「どういうことだ、あの女…」
俺は呟いた。想像した展開とはあまりにも違う幕切れだった。
「あの女の後ろ盾も、あの3人も消えていなくなりました。
 もう勝ち目は無いと諦めたのでしょう。
 あの女も、お兄さんの中から完全に消えました。俺たちの勝ちです」

ジョンは、この戦いの勝利宣言をした。
しかし、俺の中に歓喜の感情は無かった。


754 :光 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 00:32:49 ID:j0e1jDQW0
俺を椅子に縛り付けていた拘束具をジョンは外した。
椅子から立ち上がった俺の体は、不思議なくらいに軽かった。
俺とジョンは連れ添い、ゆっくりと階段を降りた。
玄関の先には、眩しい程に光が降り注いでいた。まるで希望の光だ。
俺たちは玄関の向こう側に進んだ。
その時、俺の視界の端に人影が見えた。
振り返ったその先には、俺の良く知る人物が立っていた。
「親父…」
親父は静かに頷くと、本当に優しく微笑んだ。
俺の眼からは止め処も無く涙が溢れた。親父の優しい笑顔に涙が止まらなかった。
俺は親父の前で子供のように号泣した。本当に子供のように…。
「お兄さん」
俺はジョンに呼ばれて目覚めた。
地上20階に位置する豪華なホテルの部屋。俺たちは戻ってきた。
「ああ…、長いこと悪い夢を見ていた気分だ。
 でも…最後は良かったよ…。ジョン、ありがとうな」
「いえ、俺だけじゃありません。社長や親父さんも頑張りました。勿論、お兄さんも。
 あの囮作戦の時、お兄さんは敵の手から逃れる為に、ビルから飛び降りましたよね。
 現実じゃないと分かっていても、あんなことを普通は出来ません。
 しかも、敵の本丸に向かって啖呵まで切って。
 そのお兄さんの勇気があればこそですよ」
「いや、俺は…」
そう言って俺は黙り込んだ。俺は一人だったら、とっくに死んでいた。
そして、今も情けないことを考えていた。


755 :光 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 00:33:30 ID:j0e1jDQW0
「なあ、ジョン。あの女のことなんだが…」
ジョンは俺にコーヒーを差し出した。
「言いたいことは判ります。最後に俺もあの女に侵入しましたから…。
 でも、気にしないで下さい。全部、終わったんです」
俺はコーヒーを飲みながら、窓の外に広がる夜景を眺めた。
切ない思いを振り切るように、俺は夜景を眼に焼き付けた。

その後、俺は安堵からか高熱を出し、病院に緊急入院した。
3日間程高熱に苦しんだ後、俺は奇跡的な回復を遂げ、
折れていた左腕の骨も、医者が眼を丸くする程の速さで回復した。
最悪だった体調も完全に復調し、俺は以前の健康な体を取り戻した。

入院中、ジョンが何度も見舞いに来てくれた。こいつは本当に良い奴だ。
最悪と言える騒動の中で、ジョンと出会えたことだけは神に感謝したい。

後日、俺は改めて社長にお礼を言いに行った。
相変わらずのヒステリックぶりで、
俺が感謝の言葉を述べると、
「感謝の言葉より感謝の金をよこせ!」と言ってきた。
ある意味予想通りだったので問題はない。
それから社長に、「絶対に父親の墓参りに行けよ」と言われた。
俺は久しぶりに、家族揃って親父の墓参りに行った。


768 :光 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 00:47:18 ID:j0e1jDQW0
久しぶりに来た親父の墓は、土埃で汚れていた。
俺は予め用意していた掃除用具を取り出し、念入りに親父の墓を磨いた。
「家族を助けてくれてありがとう。守ってくれてありがとう」
そんな気持ちを込めて念入りに磨いた。
母も姉も必死に墓を磨く俺を眺めて、何故そんなに一生懸命に磨くのかと不思議そうにしていた。
俺は母と姉の二人にも掃除道具を渡し、墓磨きに協力してもらった。
心なしか、親父の笑い声が聞こえた気がした。

その後、俺たちは家族でレストランに入った。
久しぶりの家族団欒だった。

食後に俺はトイレに入った。入り口を開け、トイレの中に入る。
そこはビルの屋上だった。
驚いた俺は周囲を見渡す。
俺の視線の先には、あの騒動の本丸の男が、フェンスに寄りかかりながらタバコを咥えていた。
「よお」
気軽な挨拶をすると男は俺に近づく。
「俺に近付くんじゃねぇ!!」
俺は怒鳴った。
「はは、怖いねぇ。そんなに怒鳴るなよ。なにも危害を加える気はねぇよ」
男は尚も俺に近づく。
「なんのつもりだ!?いったい、何しに来た!?」
怒鳴る俺を無視して、男は俺の眼前に立つと、思いがけない言葉を発した。
「事の顛末を知りたくないか?」


786 :顛末 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 01:19:48 ID:j0e1jDQW0
「事の顛末だと?」
男は俺を嘲るように微笑んだ。
「心配するな。あのオカマ社長の許可は取ってあるよ」
男は俺の胸に拳を当てた。
すると男の拳は何の手応えも無く、俺の体をすり抜けた。
「ほらな。俺からお前に何かすることは出来ないんだよ。
 あのオカマにお前は完全にガードされているし、俺もあのオカマに能力の根源を握られている。
 今の俺は、オカマに金玉抜かれた腑抜けなんだよ」
俺は後ずさりをした。
「俺に何を聞かせたい?」
男はどこからか椅子を取り出し、腰掛けた。
「さっきも言ったろ?事の顛末さ。
 どうして俺と妹がお前を狙ったのか。何故、殺そうとしたのか。
 お前には聞く権利があるんだよ」
確証は無かったが、男に害意はないように思えた。
確かに俺も、この騒動の動機と理由が知りたい。
俺の心にある霧の正体が知りたかった。
「分かった。なら聞かせてくれ。事の顛末を」
「そうこなくちゃな。わざわざ、来た甲斐が無い」
そう言うと男は、タバコを地面に捨て足で揉み消した。


788 :顛末 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 01:20:30 ID:j0e1jDQW0
「初めにお前に出会ったのは、お前がバイクで小樽に来たときだ。
 確かツーリングだっけ?お前はそれをやりに来たんだ。
 俺はたまたま小樽に用が有って来ていた。
 その時、妹の奈々子がお前に目をつけたんだ。
 何故なら、お前が奈々子にとって羨ましい存在だったからだ。
 まるで光に群がる虫のように、奈々子はお前に惹き寄せられた」
俺は困惑した。
「何故俺なんだ?俺の何が羨ましかったんだ?」
「お前の中に、温かい家族の繋がりが見えたのさ。
 それが奈々子には、心底羨ましかった。
 俺たちの家族はな、言っちゃ何だが、クソの肥溜めそのものだった。
 特に奈々子は生前、そうとうあのクソ親父に責められた。
 口に出すのもおぞましいぜ。実の父親が娘を性の対象にするなんてよ。
 しかも親父は極端なサドでよ。ひでぇもんだった。
 だが、俺も人のことは言えねぇ。苦しむ妹を、見て見ないふりしたんだからな。
 母親はとっくの昔に死んで居なかった。
 だから妹にとっちゃ、俺は唯一の頼りだったんだ。それを俺は見捨てた。
 面倒臭かったんだよ、正直言って。俺にはどうでもいいことだった。
 奈々子にとっては絶望的だったろうよ。アイツは一人で警察に行き、助けを求めた」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
俺は男の話を遮った。
「気持ち悪くなったか?そうだろうな。クソの肥溜めの話だ。無理も無い」
男はポケットからタバコを取り出し、口に咥えた。
さっきまで人を嘲るように笑っていた男の顔は、深海のような冷たい表情だった。
話の内容よりも俺は、この男の表情に恐怖を感じていた。


789 :顛末 ◆lWKWoo9iYU:2009/06/18(木) 01:21:10 ID:j0e1jDQW0
「いいか?続けるぜ?」
俺は無言で頷いた。なるべく男の顔を見ないように気を付けた。
「奈々子は警察に助けを求めたが、全て無視された。
 親父はクソだが、精神科医としてはエリートだった。
 警察にも協力していたし、署の幹部とも仲が良かった。
 奈々子は対応した警察官に、人格ごと全てを否定されて追い返されたんだよ。
 更に絶望した奈々子は、遂に精神を病んで、精神病院に入院した。
 しかも、親父の病院にな。
 そこでも奈々子は酷い扱いを受けた。
 警察に訴えた奈々子を、親父は許さなかった。
 奈々子の担当の看護師に言いつけて、奈々子を毎日のように暴行させた。
 信じられるか?それをやらしたのが実の父親なんだぜ?
 そして奈々子は自殺した。どこからか持って来たロープで首を吊ってな。
 そこで俺は初めて泣いたよ」
黙って俺は男の話を聞いていた。
男の家族と俺の家族。まるで正反対の家族だった。
「奈々子は自殺した後、この世を彷徨い、俺の所に来た。
 奈々子には才能はあったが、俺のような能力はなかった。
 だから、俺に復讐の話を持ちかけたんだ。俺に協力しろってな。
 勿論、それを俺は断ることも出来た。
 だが俺は、奈々子が死んでから初めて気付いた感情に逆らえなかった。
 俺は奈々子を愛していた。自分勝手な話だがな」



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