危険な好奇心(2ページ目) 慎と一緒に下校することになって五日目、俺達は久しぶりに淳の見舞いに行くことにした。 淳の家に着き、チャイムを押した。いつもの様に叔母さんが明るく出て来て、俺達を中に入れてくれた。 帰り間際に、淳の叔母さんが俺達の後を追い掛けて来て、 301 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 03:40:18 ID:5CaStqefO 楽しく四人で話しながら歩いていると、 女との距離が5M程になったとき、女は突然顔を上げ俺達四人の顔を見つめてきた。 306 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 03:56:07 ID:5CaStqefO どれくらい時が過ぎただろう。いや、ほんの数秒が永遠に感じた。 311 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 04:13:03 ID:5CaStqefO 家とは逆の方向に走り、しばらくして俺は慎に「アイツや!あの目、間違いない!俺らを探しに来たんや!」 315 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 04:27:46 ID:5CaStqefO 家に着いて、俺はすぐに慎に電話した。 朝が来て学校に行き、授業を受け、放課後の午後3時半。 156 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 04:50:46 ID:2G2sPLliO 恐怖で足がすくみだした時、あの場所に着いた。 160 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:19:27 ID:2G2sPLliO 161 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:39:52 ID:2G2sPLliO 163 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 06:07:52 ID:2G2sPLliO 慎が「裏道から行こう」と言った。俺は無言で頷いた。 そして秘密基地の裏側約5M程の位置にさしかかった時、基地の異変の理由が分かった。 181 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 16:32:42 ID:2G2sPLliO 慎が無言で写真を撮りだした。 慎は立ち上がり、「よし、このカメラを早く現像して、警察に持って行こう」と言った。 途中でカメラ屋に寄り現像を依頼。 そして30分が過ぎた。 190 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 22:54:20 ID:2G2sPLliO これで全てが終わる。 俺と慎はあの夜の出来事を話した。裏付ける写真も一枚一枚見せながら話した。 一通り話し終わると、その警官は穏やかな表情で「お父さんやお母さんに言ったの?」 286 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 01:58:44 ID:Ey4nh9XjO 290 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 02:31:44 ID:Ey4nh9XjO 291 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 02:56:37 ID:Ey4nh9XjO 警官が追い掛けてくる気配は無かった。
その日は学校で噂の『トレンチコート女』(推定・中年女)には会わなかった。
次の日も、その次の日も会わなかった。
しかし学校では相変わらず『トレンチコートの女』の噂は囁かれていた。
お土産に給食のデザートのオレンジゼリーを持って行った。
淳は相変わらず元気が無かった。
ジンマシンは大分消えていたが、淳本人は「横腹の顔の部分が日に日に大きくなっている」と言い、俺と慎には全く分からなかった。
むしろ前回見たときよりはマシになっているように見えた。
精神的に淳はショックを受けているのだろう。
俺達は学校で流れている『トレンチコートの女』の噂は淳には言わなかった。
「淳、クラスでイジメにでも会っているの?」と不安げな顔で聞いて来た。
俺達は否定したが、本当の理由を言えないことに少し罪悪感を感じた。
それから三日後、その日は珍しく内藤と佐々木と俺と慎の四人で一緒に下校した。
内藤は体がデカく、佐々木はチビ。実写版のジャイアンとスネオみたいな奴ら。
もう俺と慎の中で『中年女』の事は風化しつつあった。
学校で噂の『トレンチコート女』も実在したとしても、全くの別人と思えて来ていた。
その日は四人で駅前にガチャガチャをしに行こうと言う話になり、いつもと違う道を歩いていた。
佐々木が「あ、あれ、トレンチコート女ぢゃね?」
内藤「うわっ!ホンマや!きもっ!」と言い出した。
俺はトレンチコート女を見てみた。心の中で別人であってくれ!と願った。
トレンチコート女はスーパーの袋を片手に持ち、まだ残暑の残るアスファルトの道でただ突っ立っていた。
うつむいて表情は全く分からない。
慎は警戒しているのか、小声で俺達に「目、合わせるなよ!」と言ってきた。
少しずつ女との距離が縮まっていく。緊張が走った。女は微動たりせずただうつむいていた。
そしてその次に、俺達の胸元に目線を送って来ているのが分かった。
!名札を確認している。
俺は焦った。平常心を保つのに必死だった。
一瞬見た顔であの日の出来事がフラッシュバックし、心臓が口から出そうになった。
間違いない。『中年女』だ!
俺はうつむきながら歩き過ぎた。
俺はいつ襲い掛かられるかとビクビクした。
内藤が「あの目見たけ?あれ完全にイッテるぜ!」と笑った。
佐々木も「この糞暑いのにあの格好!ぷっ!」と馬鹿にしていた。
俺と慎は笑えなかった。
佐々木が続けて言った。
「やべ!聞こえたかな?まだ見てやがる!」
俺はとっさに振り返った。
『中年女』と目が合った・・・
まるで蝋人形のような無表情な『中年女』の顔が、ニヤっと凄くイヤらしい微笑みに変わった。
背筋が凍るとはこの事か・・・
俺は生まれて始めて恐怖によって少し小便が出た。
バレたのか?俺の顔を思い出したのか?バレたなら何故襲って来ないのか?
俺の頭はひたすらその事だけがグルグル巡っていた。
内藤が「うわーっ、まだこっち見てるぜ!佐々木!お前の言った悪口聞かれたぜ!俺知らねーっ!」っとおどけていた。
もうガチャガチャどころではない。
曲がり角を曲がり女が見えなくなった所で、俺は慎の腕を掴み「帰ろう!」と言った。
慎は俺の目をしばらく見つめて「あ、今日塾だっけ?帰らなやばいな!」と俺に合わせ、俺達は走った。
慎は意外と冷静に、「マジマジと名札見てたもんな・・・学年とクラス、淳の巾着でバレてるし・・・」
俺はそんな落ち着いた慎に腹がたち、「どーすんだよ!もう逃げ切れネーよ!家とかそのうちバレっぞ!!」
慎「やっぱ警察に言おう。このままはアカン。助けてもらお」
俺「・・・」
俺はしばらく黙っていた。たしかに他に助かる手は無いかもしれないと思った。
「でも、警察に何て言う?」と俺が問うと慎は、
「山だよ。あの山に打ち付けられた写真とか、ハッピー、タッチの死体。
あれを写真に撮って、あの女が変質者って言う証拠を見せれば、警察があの女を捕まえてくれるはずや!」
俺は納得した。もうあの山に行くのは嫌だったが仕方が無かった。
さっそく明日の放課後、裏山に二人で行く事になった。
明日の放課後、裏山に行く。
その話がまとまり俺達は家に帰ろうとしたが、『中年女』が何処に潜伏しているか分からない為、俺達は恐ろしく遠回りした。
通常なら20分で帰れるところを二時間かけて帰った。
「家とかバレてないかな?今夜きたらどーしよ!」などなど。
俺は自分がこれほどチキンとは思わなかった。
名前がバレ小屋に『淳呪殺』と彫られた淳が、精神的に病んでいるのが理解できた。
慎は『大丈夫、そんなすぐにバレないよ!』と俺に言ってくれた。
この時俺は思った。普段対等に話しているつもりだったが、慎はまるで俺の兄のような存在だと。
もちろんその日の夜は眠れなかった。
わずかな物音に脅え、目を閉じればあのニヤッと笑う中年女の顔がまぶたの裏に焼き付いていた。
俺と慎は裏山の入口まで来た。
俺は山に入るのを躊躇した。
『中年女』『変わり果てたハッピーとタッチ』『無数の釘』
頭の中をグルグルと鮮やかに『あの夜の出来事』が甦ってくる。
俺は慎の様子を伺った。慎は黙って山を見つめていた。慎も恐いのだろう。
やっぱ入るの恐いな・・・と言ってくれ!と俺は内心願っていた。
慎はズボンのポケットからインスタントカメラを取り出し右手に握ると、俺の期待を裏切り「よし」と小さく呟き、山へ入るとすぐさま走りだした。
俺はその後ろ姿に引っ張られるように走りだした。
慎は振り返らずに走り続ける。
俺は必死に慎を追った。一人になるのが恐かったから必死で追った。
今思えば慎も恐かったのだろう。恐いからこそ周りを見ずに走ったのだろう。
あの場所が徐々に近づいてくる。
思い出したくもないのにあの夜の出来事を鮮明に思いだし、心に恐怖が広がりだした。
そう、『中年女が釘を打っていた場所』『中年女がハッピー、タッチを殺した場所』『中年女に引きずり倒された場所』
『中年女と出会ってしまった場所』
俺は急に誰かに見られているような気がして周りを見渡した。
いや、誰かにでは無い。中年女に見られているような気がした。
山特有の静寂と、自分自身の心に広がった恐怖がシンクロし、足が震えだす。
立ち止まる俺を気にかける様子無く慎はあの木に近づきだした。
何かに気付き慎はしゃがみ込んだ。
「ハッピー・・・」
その言葉に俺は足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。
ハッピーは既に土の一部になりつつあった。頭蓋骨をあらわにし、その中心に少し錆びた釘が刺さったままだった。
俺は釘を抜いてやろうとすると、慎が「待って!」と言い写真を一枚撮った。
慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わず俺は再び釘を抜こうとした。
頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、頭蓋骨の中から見たことの無い多数の虫がザザッと一斉に出てきた。
「うわっ!」
俺は慌てて手を引っ込め立ち上がった。
ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。
それどころか吐き気が襲って来てえずいた。
慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。
俺はあの夜ハッピーを見殺しにし、またハッピーを見殺しにした。
俺は最高に弱く、最低な人間だ。
慎はカメラを再び構え、あの木を撮ろうとしていた。
「ん?!おい!ちょっと来てーや!」
何かを発見し俺を呼ぶ慎。俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。
慎が「これ、この前無かったよな?」と何かを指差す。
その先に視線をやると、無数に釘の刺さった写真が・・・
ん?たしか前もあったはずじゃ・・・
いや!写真が違う!
厳密に言うと、この前見た4・5歳ぐらいの女の子の写真はその横にある。
つまり、写真が増えている!
写真の状態からして、ここ2・3日ぐらいに打ち込まれているであろう。
この前に見た写真は、既に女の子かどうかもわからないぐらいに雨風で表面がボロボロになっている。
新しい写真も4、5歳ぐらいの女の子のようだ。
この時は慎に言わなかったが、俺は一瞬、新しい写真が俺だったらどうしよう!!とドキドキしていた。
慎はカメラにその打ち込まれた写真を撮った。
そして「後は秘密基地の彫り込みを撮ろう」と言い、又走りだした。
俺は近くに中年女がいるような錯覚がし、一人になるのが怖く慌てて慎を追った。
秘密基地に近づいてきて俺は違和感を感じ、「慎!」と呼び止めた。
違和感。
いつもなら秘密基地の屋根が見える位置にいるはずなのだが、屋根が見えない。
慎もすぐに気付いたようだ。
このとき脳裏に『中年女』がよぎった。
胸騒ぎがする。鼓動が激しくなる。
裏道とは、獣道を通って秘密基地に行く従来のルートとは別に、茂みの中をくぐりながら秘密基地の裏側に到達するルートの事である。
この道は、万が一秘密基地に敵が襲って来た時の為に造っておいた道。
もちろん遊びで造っていたのだが、まさかこんな形で役に立つとは・・・
この道なら万が一基地に『中年女』がいても、見つかる可能性は極めて低い。
俺と慎は四つん這いになり、茂みの中のトンネルを少しずつ進んだ。
バラバラに壊されている。
俺達が造り上げた秘密基地は、ただの材木になっていた。
しばらく様子を伺ったが中年女の気配もないので俺達は茂みから抜けだし、秘密基地の跡地に到達した。
俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見て少し泣きそうになった。
秘密基地は言わば俺達三人と2匹のもう一つの家。
バラバラになった材木の片隅に大きな石が落ちていた。恐らく誰かがこれをぶつけて壊したのだろう。
誰かが?・・いや、多分『中年女』が・・・。
そして数枚の材木をめくり『淳呪殺』と彫られた板を表にし、写真を撮った。
その時、わずかな板の隙間からハエが飛び出し、その隙間からタッチの遺体が見えた。
ハッピーとタッチ。
秘密基地よりもかけがえの無い2匹を、俺達は失った事を痛感した。
俺達は山を駆け降りた。
山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。
このカメラに納められた写真を見せれば中年女は捕まる。俺らは助かる。
その一心だけで走った。
出来上がりは30分後と言われたので、俺達は店内で待たせてもらった。
その間、慎との会話はほとんど無かった。ただただ 写真の出来上がりが待ち遠しかった。
「お待たせしましたー」
バイトらしき女店員に声をかけられた。
俺と慎は待ってましたとばかりにレジに向かった。
女店員は少し不可解な顔をしながら、「現像出来ましたので、中の確認をよろしくお願いします」といいながら写真の入った封筒を差し出した。
まぁ現像後の写真が犬の死骸や釘に刺された少女の写真のみだから、不可解な顔をするのも当然だが・・・
慎はその場で封筒から写真を取り出し、すべての写真を確認し、「大丈夫です。ありがとうございました」と言い代金を支払った。
店を出てすぐさま交番へ向かった。
駅前の交番へ二人して飛び込んだ。
「ん?!どうしたの?」
中にいた若い警官が笑顔で俺達を迎えてくれた。
俺達はその警官の元に歩み寄り「助けてください!」と言った。
そして今も『中年女』に狙われている事を。
俺たちは親には伝えてないと言うと、
「ん~んぢゃ、家の電話番号教えてくれるかな?」と警官は言い出した。
慎が「なんで親が関係あるの?狙われているのは俺達だよ?!」とキレ気味に言い放った。
ちなみに慎の両親は医者と看護婦。高校生の兄貴は某有名私立高校生。
俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、一番厳しい家庭でもある。
あの夜は親に嘘をついて秘密基地に行き、このような事に巻き込まれたとバレれば、俺や淳もだが慎が一番洒落にならないのである。
「助けてよ!警察官でしょ!!」と慎が詰め寄る。
警官は少し苦笑いして、
「君達小学生だよね?やっぱり、こーゆー事はキチンと親に言わなきゃダメだよ」と、しばらくイタチゴッコが続いた。
あげくに警官は「じゃあ君達の担任の先生は何て名前?」など、俺達にとっては脅しに取れる言葉を投げ掛けてきた。
まぁ警官にとっては、俺達の保護者及び責任者から話を聞かないと・・・って感じだったのだろうが、
俺達にとってこういう時の親や先生は、怒られる対象にしか考えられなかった。
そうこうしているうちに、俺達の心の中に目の前にいる警官に対して不信感が芽生えてきた。
このまま此処にいれば、無理矢理住所を言わされ親にチクられる!と。
この警官は、俺達の話を信じてくれてないのでは?と俺は思い始めた。
俺や慎が必死に助けを求めているのに、『親』『先生』ばかり言ってくる。
俺達は『中年女』の存在を裏付ける証拠写真まで持参しているのに・・・
俺はもう一度警官に写真を見せつけ、「犬をこんな殺し方する奴なんだよ!」と言った。
すると警官はしばらく黙り込み、写真を手に取り意外な一言を言った。
「ん~・・・これって犬?なの?」
「は?」と俺と慎は驚いた。この人は何を言っているんだろう!と。
続けて警官は「いや、君達を信じていない訳じゃないよ。じゃあもう少し詳しく教えて。ここが頭?」
警官は冗談を言っている訳では無く、本当に分からないようだ。
俺はハッピーの写真を取上げ、「だから・・・」と説明しかけて言葉が詰まった。
確かにこの写真を客観的に見ると犬の死骸には見えないかも・・・と思った。
薄茶色に変色した骨に、所々わずかに残っている毛。
俺と慎はハッピーが死体になった翌日にも見ているので、腐食が進んでいても元の形(倒れていた角度、姿)を知っているが、
知らない奴が見ると、ただの汚れた石に汚い雑巾の様なものが絡んでいるようにしか見えないかも知れない。
俺は冷静に他の写真も見てみた。
板に刻まれた『淳呪殺』、少女の写真に無数の『釘』。
たしかに『中年女』の存在に直接結び付けるのは難しいのか?
ひょっとして警官は小学生の悪戯と思っていて、先程から『親』『担任』などと言っているのか?
俺はこのまま此処にいては危険だと感じ出した。
「絶対、親を呼び出すつもりだ!」
俺は慎に小さな声で耳打ちした。
慎は無言で頷き、アゴをクイッと動かし外に出る合図を送ってきた。
すると次の瞬間、慎は勢いよく振り向き走りだした。
俺もすぐさま後を追い交番から抜け出した。
後ろから「おいっ!」と警官が呼び止める声がしたが、俺達は振り向かずに走り続けた。
警官はおそらく、悪戯しにきた小学生が嘘を見破られそうになり逃げ出した。とでも思っているのだろう。