ゴーストインザヘッド

元引きこもりのオタクが送るサブカル・エンタメ系ブログ。マンガ、ラノベ、ゲーム、ガジェットなどを中心に書いていきます。読んだ人をモヤモヤさせることが目標です。

危険な好奇心(4ページ目)




危険な好奇心(4ページ目)

688 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 03:14:45 ID:BiI+Rh5RO
俺は窓から外を眺めた。
家の前の路地にある電柱に慎がいるはず!と思ったが、慎の姿は無かった。
どこかに隠れているのかと思い、見える範囲で捜したが何処にもいない。
その時、俺の部屋の下にあたる庭先から「キャ!」と母親の声がした。
びっくりして窓を開け、身を乗り出して下を見た。
そこには母親が地面を見つめながら口元に手を当てがい、何かを見て驚いていた。
俺は何が起こっているのか分からず「どーしたの!」と聞いた。
母は俺の声にギクッと反応しこちらを見上げ、驚いた表情で無言のまま家の外壁を指差した。
俺は良からぬ感じを察したが、母の指差す方向を見た。
そこには何やらドロっとした紫色した液体とゼリー状の物が付いていた。
先程のドスっの音の正体であろう。
視線を母の足元に落とし、その何かを捜した。
そこには内蔵が飛び出た大きな牛蛙の死体が落ちていた。
母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
俺はすぐに『中年女』が頭に浮かんだ。
すぐに目で『中年女』の姿を捜したが、何処にも姿は見えなかった。
母はふと思い出したように居間に駆け込み、警察に電話をした。


690 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 04:34:37 ID:BiI+Rh5RO
母は青い顔をしていた。恐らくこの時始めて『中年女』の異常性を知ったのだろう。
そうだあの女は異常なんだ。
きっと今も蛙を投げ込んできた後、俺や母の驚く姿を見てニヤついているはず・・・
きっと近くから俺を見ているはず・・・
鳥肌が立った。
警察早く来てくれ!
心の中で叫んだ。
もうこの家は家では無い。
『中年女』からすれば鳥籠のように俺達の動きが丸見えなんだ。
常に見られているんだと感じ出した。

しばらくしてパトカーがやってきた。昨日とは違う警官二人だった。
警官一人は外壁や投げ込んで来たであろう道路を何やら調べ、
もう一人は俺と母に「何か見なかったか?」「その時の状況は?」などなど漠然とした事を何度も聞いて来た。
最後に警官が不安を煽るような事を言って来た。
「たしか、昨日もいやがらせを受けているんですよね?
 おそらく犯人は、すぐにでも同じような事をしてくる可能性が高いです」と。
俺はたまらず「あの呪いの女なんです!コートを着てる40歳ぐらいの女なんです!早く捕まえてください!」と半泣きになって懇願した。


774 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:31:16 ID:UOWDTjZwO
すると警察官は、
「さっきね、山を見てきたんだよ・・・
 犬の死体も、板に彫られたお友達の名前も、あと女の子の写真もあったよ。
 今からそれを調べて、必ず犯人捕まえるから!」
と言い俺の肩をポンと叩くと、母の元へ行き何やら話していた。
「主人に連絡を・・・」みたいな事を言われていたようだ。
壁に付いた蛙の染み及びその死体の写真を撮り、1時間程で警官達は帰って行った。

しばらくして父親が帰宅した。まだ5時前だった。昨日の今日だから心配になったのだろう。
夕食の準備をしている母も夕刊を読んでいる父も無言だったが、どことなくソワソワしているのが分かった。
もちろん俺自身も、次にいつ『中年女』が来るのか不安で仕方なかった。
その日の晩飯は家族皆が無口で、只テレビの音だけが部屋に響いていた。

そして夜11時過ぎ、皆で床に就いた。用心の為、一階の居間は電気を点けっぱなしにしておくことになった。


775 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:40:45 ID:UOWDTjZwO
その夜も家族揃って同じ部屋で寝た。
もちろんなかなか寝付けなかった。

どれぐらい時間が過ぎただろう。
突然玄関先で「オラァー!!」とドスの効いた男の声とともに、
「ア゛ー!ア゛ー!」と聞き覚えのある奇声、『中年女』の叫び声が聞こえた。
俺達家族は皆飛び起き、父が慌てて玄関先に向かった。
俺は母にギュッと抱き締められ、二人して寝室にいた。
カチャカチャ・・・ガラガラガラガラ!
父が玄関の鍵を開け戸を開ける音がした。


782 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:55:14 ID:UOWDTjZwO
戸を開ける音と共に、
「ア゛ー!!チキショー!ア゛ァー!!ア゛ァァァァ!」
再び『中年女』の叫びが聞こえて来た。
「大人しくしろ!」「オラ!暴れるな!」と、男の声もした。
この時、俺は「警官だ!警官に捕まったんだ!」と事態を把握した。
中年女は奇声を上げ続けていた。
俺はガクガク震え、母の腕の中から抜けれなかったが、
父親が戻って来て、「犯人が捕まったんだ。お前が山で見た人かどうかを確認したいそうだが・・・大丈夫か?』と尋ねてきた。
もちろん大丈夫ではなかったが、これで本当に全てが終わる。終わらせることが出来る!と自分に言い聞かせ、
「・・・うん』と返事し、階段をゆっくりと降り玄関先に向かった。
玄関先から「オマエーっ!チクショー!オマエまで私を苦しめるのかー!」と凄い叫び声が聞こえ足がすくんだが、
父が俺の肩を抱き、二人の警官に取り押さえられた『中年女』の前に俺は立った。


791 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:10:12 ID:UOWDTjZwO
俺は最初、恐怖の余り自分の足元しか見れなかったが、父に肩を軽く叩かれ、ゆっくりと視線を『中年女』に送った。
両肩を二人の警官に固められ、地面に顎を擦りつけながら『中年女』は俺を睨んでいた。
相当暴れたらしく、髪は乱れ目は血走り、野犬の様によだれを垂れていた。
「オマエー!オマエー!どこまで私を苦しめるー!」
訳のわからない事を『中年女』は叫びジタバタしていた。
それを取り押さえていた警官が「間違いない?山にいたのはコイツだね?」と聞いてきた。
俺は中年女の迫力に押され、声を出すことが出来ず無言で頷いた。
警官はすぐに手錠をはめ、「貴様!放火未遂現行犯だ!」と言った。

手錠をはめられた後もずっと奇声を発し暴れていたが、警官が二人掛かりでパトカーに連行した。
そして一人だけ警官がこちらに戻って来て、「事情を説明します」と話し出した。


802 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:27:36 ID:UOWDTjZwO
警官「自宅前をパトロールしてると、玄関に人影が見えまして、あの女なんですけど・・・しゃがみ込んで、ライターで火を付けていたんですよ。
 玄関先に古新聞置いてますよね?』
母「いえ、置いてないですけど・・・?」
警官『じゃあ、これもあの女が用意したんですかねー?」と指差した。
そこには新聞紙の束があった。確かにうちがとっている新聞社の物では無かった。
警官が「ん?」と何かに気付き、新聞紙の束の中から何かを取り出した。
木の板。
それには『○○○焼死祈願』と俺のフルネームが彫られていた。
俺は全身に鳥肌が立った。やはり俺の名前を調べ上げていたんだ。
もし警察がパトロールしていなかったら・・・と少し気が遠くなった。
母は泣きだし、俺を抱き締めて頭を撫で回してきた。
警官はしばらく黙っていたが、
「実はあの女・・・少し精神的に病んでまして・・・
 ○○町にすんでいるんですけど、結構苦情・・・まぁ、同情の声というのもあるんですがねぇ・・・」
と中年女の事を語りだした。


810 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:55:14 ID:UOWDTjZwO
「あの女、1年前に交通事故で、主人と息子を亡くしてまして・・・
 それ以来、情緒不安定と精神分裂症というか・・・まぁ近所との揉め事なども出てきだしましてね。
 山で発見された少女の写真で、あの女の特定は出来ていたんですよ。
 二年前の交通事故・・・あの少女が道路に飛び出してきて、ハンドルをきって壁に衝突。
 それで主人と息子が亡くなったんですよ・・・
 飛び出した少女は無傷で助かったんですが・・・以来、あの少女の家にも散々嫌がらせをしているんですよ。
 ただ事故が事故なだけに、少女の家からは被害届けはでてないんですが・・・
 あの少女を相当怨んでいるんでしょうね・・・」

俺はその話を聞き、同情などは一切出来なかった。
むしろ『中年女』の執念深さがヒシヒシと伝わってきた。
何よりも、警官も認める情緒不安定・精神分裂症。
これではすぐに釈放になるのではないか?
釈放後、また『中年女』の存在に怯え生きていかなければならないのか?
警官の話を聞き、安堵感よりも絶望感が心に広がった。



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