リゾートバイト(3ページ目) 「女将さんならきっと、お花に水やりですね。すぐ戻ってきますよ」 そう言って美咲ちゃんは、Bの方を見て、 「Bくん、すぐおにぎり作るからまっててね」 ああ、美咲ちゃん・・何もなければきっと俺は美咲ちゃんとひと夏のあばん(ry 俺達は女将さんが戻ってくるのを待った。 しばらくすると女将さんは戻ってきて、仕事もせずに広間に座り込む俺達を見て 俺は覚悟を決めて切り出した。 俺「女将さん、お話があるんですけどちょっといいですか?」 女将さんは 俺「勝手を承知で言います。 AとBもすぐ後に、 女将さんは表情ひとつ変えずにしばらく黙っていた。 そして沈黙の後、 そして給料の話、引き上げる際の部屋の掃除などの話を一方的に喋り、 拍子抜けするくらいにすんなり話が通ったことに、三人とも安堵していた。 話が決まったからには俺達は即行動した。 バイトを始めてから、仕事が終われば近くの海で遊んだり、疲れてる日には戻ってすぐに爆睡だったんで、 準備ができたということで、俺達は広間に戻り、女将さんたちに挨拶をすることにした。 広間に着くと女将さんと旦那さん、そして悲しそうな顔をした美咲ちゃんが座っていた。 俺達は3人並んで正座し、 俺AB「ありがとうございました」 すると女将さんが腰を上げて、俺達に近寄りこう言った。 そう言って茶封筒を3つ、そして小さな巾着袋を3つ手渡してきた。 そして後ろから美咲ちゃんが、 おいおい止めてくれ。泣いちゃうよ俺! 前日で死にそうな思いしたのにまさかのセンチって思うだろ? 挨拶も済んで、俺達は帰ることになった。 行きは近くのバス停までバスを使って来たんだが、帰りはタクシーにした。 そして美咲ちゃんに頼んでタクシーを呼んでもらった。 タクシーが到着すると、女将さんたちは車まで見送りに来てくれた。 タクシーに乗り込む前に、俺は振り返った。 そして3人とも乗り込み、行き先を告げた後すぐ車が動き出した。 旅館から少し離れると、急にBが運転手に行き先を変更するよう言ったんだ。 運転手はメモを見て怪訝な顔をして聞いてきた。 B「大丈夫です」 Bはそう答えると、後部座席でキョトンとしているAと俺に向かって 俺とAは顔を見合わせた。考えてることは一緒だったと思う。 (どこへ行くんだ・・?) だが、朝のBの様子を見た後だったんで、正直気が引けて何も聞けなかった。 しばらく走っていると運転手さんが聞いてきた。 え?と思って振り返ると、軽トラックが一台後ろにぴったりくっついて走っていた。 俺達は何か忘れ物でもしたのかと思い、車を止めてもらえるよう頼んだ。 道の端に車が止まると、旦那さんもそのまますぐ後ろに軽トラを止めた。 B「帰りませんよ。こんな状態で帰れるはずないですから」 Bと旦那さんはやけに話が通じあっていて、Aと俺は完全に置いてけぼりを食らった。 俺「え、どういうこと?」 すると旦那さんは俺のほうを向き、まっすぐ目を見つめて言った。 心臓がドクンって鳴った。 (なんで知ってんの?) この時は本気で怖かった。 俺は、「はい」と答えるだけで精一杯だった。 すると旦那さんはため息をひとつ吐くと言った。 おい、持ってかれるってなんだ。勘弁してくれよ。 不安になってAを見た。Aは驚くような目で俺を見ていた。 信じられなかった。 あまりの恐怖で、自分の責任を誰か他の人に転嫁しようとしていた。 呆然としている俺を横目に、旦那さんは話を進めた。 旦「御祓いだって?」 B「はい」 旦「おめぇ、見えてんのか」 B「・・・」 A「おい、見えてるって・・」 B「ごめん。今はまだ聞かないでくれ」 俺は思わずBに掴みかかった。 俺「いい加減にしろよ。さっきから何なんだよ!」 旦那さんが割って入る。 旦「おいおい止めとけ。おめぇら、逆にBに感謝しなきゃならねぇぞ」 A「でも、言えないってことないんじゃないすか?」 旦「おめぇらはまだ見えてないんだ。一番危ないのはBなんだよ」 俺とAは揃ってBを見た。 俺「どうしてBなんですか?実際にあそこに行ったのは俺です」 旦「わかってるさ。でもおめぇは見えてないんだろ?」 俺「さっきから見えてるとか見えてないとか、なんなんですか?」 旦「知らん」 俺「はぁ!?」 トンチンカンなことを言う旦那さんに対して俺はイラっとした。 旦「真っ黒だってことだけだな、俺の知ってる情報は」 旦「だがなぁ・・」 そう言って旦那さんはBを見る。 旦「御祓いに行ったところで、なんもなりゃせんと思うぞ」 Bは、疑いの目を旦那さんに向けて聞いた。 旦「前にもそういうことがあったからだな。 B「行ってみなくちゃわからないですよね?」 旦「それは、そうだな」 B「だったら」 旦「それで駄目だったら、どうするつもりなんだ?」 B「・・・」 旦「見えてからは、とんでもなく早いぞ」 早いという言葉が何のことを言っているのか俺にはさっぱりわからなかった。 声にならない泣き声だった。俺とAは、傍で立ち尽くすだけで何もできなかった。 俺達の異様な雰囲気を感じ取ったのか、タクシーの窓を開けて中から運転手が話しかけてきた。 俺達3人は何も答えられない。 すると旦那さんが運転手に向かってこう言った。 運転手は、 その場を無視して旦那さんはBに話しかける。 旦「俺がなんでおめぇらを追いかけてきたかわかるか? 旦「時間がねぇ。俺を信じろ」 肩を震わせ泣いていたBは、精一杯だったんだろうな、顔をしわくちゃにして声を詰まらせながら言った。 呼吸ができていなかった。 昨日の今日だが、Bは一人で、何かものすごい大きなものを抱え込んでいたんだと思った。 Bのその声を聞いた俺は、運転手に言った。 その後、俺達は旦那さんの軽トラに乗り込んだ。 旦那さんは俺達が荷台に乗っているにも関わらず、有り得んほどにスピードを出した。 どれくらい走ったのか分からない。 着いた場所は、普通の一軒家だった。 俺達の通されたのはその家の方で、旦那さんは呼び鈴を鳴らして待っている間、俺達に「聞かれたことにだけ答えろ」と言った。 旦「おめぇら、口が悪いからな。変なこと言うんじゃねぇぞ」 俺は思った。 少し待つと、家から一人の女の人が出てきた。 その女の人に案内されて通されたのは家の一角にある座敷だった。 俺達が部屋に入るなり、おっさんが「禍々しい」と呟いたのが聞こえた。 旦「座れ」 旦那さんの掛け声で俺達は、坊さんたちが並んで座っている丁度向かい側に3人並んで座った。 するとじいさんは口を開いた。 旦「えぇ、そうなんですわ。このBって奴は、もう見えてしまってるんですわ」 旦那さんがそう言った瞬間、おっさんとじいさんは顔を見合わせた。 すると坊さんが口を開いた。 旦「いえ。実際行ったのはこの○○(俺の名前)って奴で」 坊「ふむ」 旦「Bは下から覗いていただけらしいんです」 坊「そうですか」 そして少し黙ったあと坊さんはBに聞いたんだ。 坊「あなたは、この様な経験は初めてですか?」 Bが聞き返す。 坊「そうです。この様に、霊を見たりする体験です」 B「え・・ないです」 坊「そうですか。不思議なこともあるものです」 B「・・俺」 Bが何か喋ろうとしていた。 坊「はい」 B「俺、・・・死ぬんでしょうか?」 そう言ったBの腕は、正座した膝の上で突っ張っているのに、ガクガクと震えていた。 すると坊さんは静かに答えた。 坊「そうですね。このままいけば、確実に」 Bは言葉を失った様子だった。 A「死ぬって」 坊「持って行かれるという意味です」 意味を説明されたところで俺達はわからない。 更に坊さんは続けた。 坊「話がわからないのは当然です。○○くんは、堂へ行った時に何か違和感を感じませんでしたか?」 坊さんが堂といっているのは、どうやらあの旅館の2階の場所らしかった。 俺「音が聞こえました。あと、変な呼吸音が。 坊「そうですか。 あまり驚かなかった。事実、俺もそう思っていたからだ。 坊「恐らくあなたは、その人ではないものの存在を耳で感じた。 そう言うと、坊さんはゆっくりと立ち上がった。 坊「Bくん、今は見えていますか?」 B「いえ。ただ音が、さっきから壁を引っかく音がすごくて」 坊「ここには入れないということです。幾重にも結界を張っておきました。 坊「しかし、皆がいつまでもここに留まることは出来ないのです。 坊「また苦しい思いをすると思います。 Bはカクカクと首を縦に振っていた。
と笑顔で台所に引っ込んだ。
「どうしたのあんたたち?」
とキョトンとした顔をしながら言った。
「なんだい?深刻な顔して」
と俺達の前に座った。
俺達、今日でここを辞めさせてもらいたいんです」
AB「お願いします」
と言って頭を下げた。
俺はそれがすごく不気味だった。
眉ひとつ動かさないんだ。まるで予想していたかのような表情で。
「そうかい。わかった、ほんとにもうしょうがない子たちだよ~。」
と言って笑った。
用意ができたら声をかけるようにと俺達に言ったんだ。
だけど、心のどこかでなんかおかしいと思う気持ちもあったはずだ。
荷物は前の晩のうちにまとめてある。
あとは部屋の掃除をするだけで良かった。
部屋にいる時間はあまりなかったように思う。
だから男3人の部屋といえど、元からそんなに汚れているわけでもなかった。
そんなこんなで、一時間ほどの掃除をすれば部屋も大分綺麗になった。
俺「短い間ですが、お世話になりました。
勝手言ってすみません」
と言って頭を下げた。
「こっちこそ、短い間だったけどありがとうね。
これ、少ないけど・・・」
茶封筒は思ったよりズッシリしてて、巾着袋はすごく軽かった。
「元気でね」
といってちょっと泣きそうな顔しながら言うんだ。
そして、
「みんなの分も作ったから」って、
3人分のおにぎりを渡してくれた。
そう思ってあんまり美咲ちゃんの顔を見れなかった。
だけど、実際すげー世話になった人との別れって、その時はそういうの無しになるものなんだわ。
旦那さんが車で駅まで送ってくれるって話も出たんだが、Bが断った。
周りから見ればなんとなく感動的な別れに見えただろうが、実際俺達は逃げ出す真っ最中だったんだよな。
かろうじて見えた2階への階段のドア。目を凝らすと、ほんの少し開いてるような気がして思わず顔を背けた。
運転手になにかメモみたいなものを渡して、ここに行ってくれと。
「大丈夫?結構かかるよ?」
B「行かなきゃいけないとこがある。お前らも一緒に」
と言った。
またキレ出すんじゃないかとびびってたんだ。
「後ろ走ってる車、お客さんたちの知り合いじゃない?」
そして中から手を振っていたのは、旦那さんだった。
そして出てくると俺達のところに来て、
「そのまま帰ったら駄目だ。」
と言った。
なにがなにやらわからんかったので素直に質問した。
旦「おめぇ、あそこ行ったな?」
霊的なものじゃなくて、なんていうか大変なことをしてしまったっていう思いがすごくて。
旦「このまま帰ったら完全に持ってかれちまう。
なぁんであんなとこ行ったんだかな。
まあ、元はと言えば俺がちゃんと言わんかったのが悪いんだけどよ。」
ここから帰ったら楽しい夏休みが待ってるはずだろ?
さらに不安になってBを見た。
するとBは言うんだ。
B「大丈夫。これから御祓いに行こう。そのためにもう向こうに話してあるから」
憑かれていたってことか?
何だよ俺死ぬのか?この流れは死ぬんだよな?
なんであんなとこ行ったんだって?行くなと思うなら始めから言ってくれ。
Bは、困ったような顔をしてそこにいた。
B「どうしてですか?」
でも、詳しくは言えん。」
だが、旦那さんがそういった後、Bは崩れ落ちるようにして泣き出したんだ。
「お客さんたち大丈夫ですか?」
Bに限っては道路に伏せて泣いてる始末だ。
旦「あぁ、すまんね。呼び出しておいて申し訳ないんだが、こいつらはここで降ろしてもらえるか?」
「え?でも・・」
と言って俺達を交互に見た。
事の発端を知る人がいる。その人のとこに連れてってやる。
もう話はしてある。すぐ来いとのことだ。」
B「おねが・・っ・・します・・」
男泣きでもなんでもない、泣きじゃくる赤ん坊を見ているようだった。
あんなに泣いたBを見たのは、後にも先にもこの時だけだ。
俺「すいません。ここで降ります。いくらですか?」
といっても、俺とAは後の荷台なわけで。
乗り心地は史上最悪だった。
Aから軽く女々しい悲鳴を聞いたが、スルーした。
あんまり長くなかったんじゃないかな。
まあ正直、それどころじゃないほど尾てい骨が痛くて覚えていないだけなんだが。
横に小さな鳥居が立っていて石段が奥の方に続いていた。
この人にだけは言われる筋合いがないと。
年は20代くらいの普通の人なんだけど、額の真ん中にでっかいホクロがあったのがすごく印象的だった。
そこには一人の坊さん(僧って言うのか?)と、一人のおっさん、一人のじいさんが座っていた。
そして旦那さんがその隣に座った。
「○○(旅館の名前)の旦那、この子ら全部で3人かね?」
坊「旦那さん、堂に行ったというのは彼ですか?」
B「この様な経験?」
そこにいた全員がBを見た。
震えが急に止まって、畳を一点食い入るように見つめだした。
それを見たAが口を挟んだ。
何に何を持って行かれるのか。
それで俺は答えた。
2階のドアにはお札の様なものが沢山貼ってありました」
気づいているかも知れませんがあそこには、人ではないものがおります」
本来ならば人には感じられないものなのです。誰にも気づかれず、ひっそりとそこにいるものなのです」
その結界を必死に破ろうとしているのですね」
今からここを出て、おんどう(ごめん音でしかわからない)へ行きます。Bくん、ここから出ればまたあのものたちが現れます。」
でも必ず助けますから、気をしっかり持って付いて来てくださいね」